誰も守ってくれない

犯罪の凶悪化と多発化が大きな問題となっている今日。
マスコミに追われる犯罪者の妹と彼女を保護する刑事の姿を通じて、
社会のあり方を問う社会派エンターテイメントである。
監督は大ヒット作「踊る大捜査線」シリーズの脚本家として知られる君塚良一。
硬派な内容でありながら、見る者を釘付けにするメリハリの効いた演出。
強いメッセージ性と弱者に対する思いやりに溢れた力作だ。
モントリオール世界映画祭で最優秀脚本賞を受賞。

090203_daremo_main.jpg船村沙織(志田未来)は東京に住むごく普通の中学生。
ある日、兄が小学生姉妹殺害の容疑者として逮捕されたことで生活は一変。
自宅にはマスコミが押し寄せ、近所からは石が投げ込まれる。
警察からは加害者家族保護を目的に刑事が派遣されてくる。
沙織の担当は勝浦(佐藤浩市)。彼は、崩壊寸前の家族関係を修復するため、
翌日から休暇を取って妻と娘、3人の家族旅行を計画していた。
早々に仕事を終わらせようと、マスコミを振り切って沙織を連れ出す勝浦だったが、
執拗な追跡は続く。心を開かない沙織に苛立ちを覚えながらも、逃避行を続ける勝浦。
実は彼は、過去の失敗から心に大きな傷を抱えていた…。

090203_daremo_sub01.jpg序盤、長男の逮捕から家族を保護するまでの様子を追ったドキュメンタリータッチの
展開に、まず圧倒される。受け入れ難い事実に呆然とする母親。家族の保護のために、
事務的に離婚手続きを進める役人。なす術もなく指示に従うだけの父親。
普段目にすることのない出来事を、その場に居合わせるかのような臨場感で描く。

そして、斬新な物語に説得力を与えているのが、リアルな登場人物の描写。
自分の家庭が崩壊寸前のときに、犯罪者家族を保護しなければならない
ジレンマを抱えた勝浦。息子へのいじめを放置した学校への怒りから、加害者家族を
保護する警察を糾弾する新聞記者など。実在感のある人物描写をベースにすることで、
マスコミが悪い、警察が悪いというような、型にはまった善悪論では片付けられない
厚みを生んでいる。

090203_daremo_sub02.jpgその一方で、これとは正反対の人間も登場する。
多数登場する無名のネット住人たちだ。
マスコミよりも何よりも、勝浦たちを追い詰めるのは彼ら。
掲示板に吊るし上げの書き込みを行い、容赦なくプライベートまで晒してゆく。
だが、その動機は不明な上、個人の顔は最後まで見えない。
(隠れ家まで追ってきた場面でも、表情を一切映さない演出がニクイ。)
モラルの欠如したネット書き込みの恐ろしさと危険性が伝わってくる。

社会の暗い部分を描きながらも、見終わった後に不快感は残らず、
清々しささえ感じる。このあたりは君塚監督の力と沙織を演じた志田未来の
さわやかな魅力によるものだろう。物語としても見事な出来で、扱っている内容も
意義深い。幅広くお勧めしたい作品だ。

映画「誰も守ってくれない」オフィシャルサイト
http://www.dare-mamo.jp/
殺人犯の妹となった少女と彼女を守る
刑事の逃避行が始まる──。
2009年1月24日(土)よりロードショー
(C) 2009 フジテレビジョン 日本映画衛星放送 東宝

【映画ライター】イノウエケンイチ

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カテゴリー: 日本 | 映画レビュー

2009年2月3日 by p-movie.com