チェンジリング

1920年代、アメリカで実際に起きた”子供取り違え事件”を、
巨匠クリント・イーストウッドが映画化。
アンジェリーナ・ジョリーが警察の圧力に屈せず、行方不明になった息子を
捜し求める母親を熱演、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

090306_changeling_main.jpg1928年、ロサンゼルス。
クリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は1人息子のウォルターを
育てながら電話会社で働くシングルマザー。
ある日、彼女が仕事から帰ると、ウォルターが行方不明に。
5ヵ月後、必死で息子を探す彼女の元に警察からウォルター発見の知らせが。
だが、再会した少年は、息子ではなかった。
その事実を訴えるも、警察の面子を潰されたくないジョーンズ警部
(ジェフリー・ドノヴァン)は、5ヶ月の間に様子が変わっただけだ、と主張。
やむなく自宅に連れ帰るが、少年がウォルターでないことは明らか。
再び警察に訴えるクリスティンだったが…。

息子を取り戻したいと願う母親にとって、あまりにも理不尽な出来事の連続。
頼みにしていたはずの警察からは厄介者扱いされ、挙句は精神病院送り。
それでも権力に負けず、不屈の意志で息子を捜し求めるクリスティン役の
アンジェリーナ・ジョリーが素晴らしい。
実在の人物を演じるためか、帽子を目深に被り、地味目のメイクで
“ハリウッドスター”の印象は控えめ。
唯一目を引くのは、真一文字に結ばれた口元の真っ赤な口紅。
鮮烈な赤い色がクリスティンの決意を象徴する。
内面を的確に表現した装いと、アンジーの名演。
そこに抑制の効いたイーストウッド演出が加わり、クリスティン・コリンズという
人物を見事にスクリーンに再現している。

物語の舞台こそ1920年代だが、背景となる社会状況は奇妙なほど
今の世の中と似通っている。
自分たちに都合のいい論理をゴリ押ししようとする権力の姿。
劇中では語られないが、この頃はアメリカの経済破綻をきっかけに
世界恐慌に陥った時期。
イーストウッドは、製作中に現在の不況を予想していたわけではないだろうが、
その様子はブッシュ政権末期のアメリカと重なる。
そう考えると本作は、行方不明の息子を探す母親の物語というだけでなく、
80年前の事件に託したイーストウッドからのメッセージのようにも思えてくる。

歴史に名を残した人物でもなく、ささやかな幸せを取り戻そうと権力に立ち向かった
ごく平凡な1人の女性、クリスティン・コリンズ。
その姿は80年の時を越え、今を生きる我々に勇気を与えてくれるに違いない。

映画「チェンジリング」オフィシャルサイト
http://changeling.jp/
どれだけ祈れば、あの子は帰ってくるの―。
2009年2月20日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2009年3月6日 by p-movie.com