『私のマーロンとブランド』単独インタビュー

10月26日にすべての日程を終了した第21回東京国際映画祭。
その閉会式で「最優秀アジア映画賞」を受賞したのはクルド系トルコ人、
フセイン・カラベイ監督による『私のマーロンとブランド』でした。

081120_karabey_01.jpgすでに複数の映画祭で受賞を重ねてきた本作は、
トルコ・インディペンデント界が生み出した鮮烈な一作であり、
イラク戦争によって引き裂かれた男女の姿を通して、現代に生きる人々の
先入観や無理解といった問題に大きく切り込んだ、実に勇気ある力作です。

閉会式前日、幸運にもフセイン・カラベイ監督にインタビューすることができました。
はたして彼の口からどんな言葉が語られたのでしょうか。

<あらすじ>
とある映画の撮影現場。
イラク版「スーパーマン」の主演として知られるクルド人(中年)俳優ハマ・アリと、
イスタンブール出身の(ふとっちょ)女優アイチャが恋に落ちた。撮影が終わり、
それぞれの祖国に帰っていくふたり。離ればなれになっても電話やビデオレター、
手紙などで愛を確かめ合う期間が続くも、そんなさなか、アメリカによる容赦ない
イラク攻撃が幕を開ける。繋がらなくなる電話。届かなくなる手紙。
テレビでは空爆映像がリアルタイムで流れているのに、ふたりの実際の距離は、
いま、こんなにも遠い。いつしかアイチャは我慢の限界に達する。
もうジッとしてはいられない。彼女はハマ・アリの住むイラク北部を目指して
命がけの危険な旅に踏み出していく・・・。

◆それはフィクションであり、ドキュメンタリーでもある

---この映画は実話をベースにしていて、主役をはじめその当事者たちが
自分自身を演じているそうですね。そのせいか、主人公アイチャさんの旅は
ドキュメンタリーじゃないかと見間違うほどの緊迫感があります。

【カラベイ/監督】
その通りです。すべて彼ら自身が演じています。
私が思うに、ドキュメンタリー作品というものは、ある意味フィクションよりも
フィクショナルである場合があります。逆にフィクションの場合でも、方法によっては
よりリアルに構築していくことが可能です。重要なのは、どういうやり方で、
何を描くかと言うことです。その境目を「こうだ!」と決めてしまうと物語の
可能性を狭めてしまう。私は今回、その中間域を目指しました。
ちょうど「ドキュ・ドラマ」と呼べるのかもしれません。

---本作は主演女優のアイチャさんにとって「苦難の再現」ということになります。
彼女への出演依頼は大変だったのでは?

【カラベイ/監督】
私は映画の世界に入る前、しばらく演技の勉強をしていました。
そこで気づいたことですが、そもそも俳優という職業は本来の自分そのままの役柄を
演じられることなど稀のようです。その意味で、演技中の俳優は常にその内側に
“矛盾”や”葛藤”を抱えた存在といえるでしょう。だからこそ私はアイチャにこう話を
持ちかけました。「あなたはこれまでいろんな役柄を演じてきたよね?
だったら・・・自分自身を演じるのはどう?」。すると彼女は少し考えて
「ちょっと怖いけれど・・・やってみる価値はあるわ」と答えてくれました。

---なるほど、彼女はプロフェッショナルだからこそ、「自分自身を演じる」という
究極の選択肢を受け入れたわけですね。

【カラベイ/監督】
そのとおりです。そしてこれは後から知ったことですが、どうやら彼女も自分の物語を
誰かに語りたいと思っていたようです。そのうえ、彼女は単に演技だけではなくて、
私と一緒にこの映画の脚本を書き上げてくれました。この勇気ある決断の結果、
彼女は現在までに世界の映画祭で3つの賞を受賞しているんですよ。

◆トルコに生きるクルド人

---アイチャは旅の途中でたくさんのクルド人と遭遇します。この映画で
「クルド」は、重要なテーマになっていますね。

【カラベイ/監督】
トルコではいま、移民や少数民族が暴行に逢う事件が頻繁に見られます。
私はクルド系のトルコ人なのですが、こういう状況が深刻化すると、たとえば
テレビドラマなどでもクルド人に対してステレオタイプの描かれ方が進んでいきます。
トルコ語が下手である、頭が悪い、テロリスト、殺人者・・・といった具合に。
多くのクルド人と出逢うアイチャの目線を通して、そうした偏りのある見方をなんとか
打ち砕きたいと想いました。これは私にとってとても大事な課題です。

---それは世界が直面している課題でもあります。

【カラベイ/監督】
そうですね。人々は「知らない」からこそ、たやすく嫌うことも、憎むことも可能になる。
逆にその人を少しでも知っていれば、嫌ったり憎んだりといったことから距離を
置くはずです。人々に関する正確な知識や情報が不足しているからこそ、人間同士の
深刻な対立が生じてしまうのだと思うのです。


081120_karabey_02.jpg映画「私のマーロンとブランド」
(英題”My Marlon and Brando”原題”Gitmek”)

<監督・脚本>
フセイン・カラベイ

<キャスト>
アイチャ・ダムガシュ
ハマ・アリ・カン

映画「私のマーロンとブランド」オフィシャルサイト
http://www.insomnia-sales.com/pro/fiche_pro.php?ID_Film=144
copyright © all rights reserved – INSOMNIA World Sales

【映画ライター】牛津厚信

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カテゴリー: 特 集

2008年11月20日 by p-movie.com