近距離恋愛

いちばん身近にいるからこそ、大切な気持ちに気づかない―

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「男女の友情は長続きしない」なんてよく言われるけど、この10年来の大親友にもどうやら大きな転機が訪れた。
よき理解者で、よきケンカ相手。
そんな男女がはじめて自分の本音に触れたとき、この夏最強のラブ・コメディが幕を開ける!

トムとハンナは大学生の頃からの腐れ縁。性格は正反対なのに、気がつけば周りの誰よりも信頼できて、歳を重ねても一緒にバカをやれる仲になっていた。そんな友情がずっと続くと思っていた二人の運命は、ハンナのスコットランド出張でガラリと変わる。

080711_kinkyori_03.jpgハンナの不在に心が揺れ動くトム。彼は自分の本心に少しずつ気がつき始めていた。

しかしここで波乱が巻き起こる。なんとハンナは旅先で恋に落ち、すぐさま電撃婚約。帰国後、再会したトムをよりによって”花嫁付き添い人”に指名したのだ…!

「ラブコメの女王!」「泣ける純愛!」といった惹きの強い謳い文句があるわけではないが、『魔法にかけられて』のパトリック・デンプシーと『M:i:Ⅲ』のミシェル・モナハンの堅実な演技は、嫌味のない上品なドタバタぶりで観客を清々しく魅了する。

そして普通は女性が務める”花嫁付添い人(Made of Honor)”をよりによって男性が請け負ってしまうという変化球ぶり。プレイボーイ風のデンプシーが未練タラタラで彼女を追いかける様が、情けないやら、潔いやらで笑いをさそう。

さらに後半、舞台は一気にスコットランドへ。

そこでトム&ハンナが式直前まで繰り広げる駆け引きに加え、ご当地の由緒ある婚礼行事までもがミルフィーユのように何層にもカルチャーギャップを塗り重ね、いつしかトムのガムシャラな奪還作戦までもがかえってストレートな純愛に見えてくるから不思議なものだ。

080711_kinkyori_02.jpgまあ、振り回される周囲の人たちのことを思えば非常に傍迷惑な話だが、これもラブ・コメディだからこそ成せるワザ。

ここは大船に乗ったつもりでデンプシー&モナハンも芸達者ぶりを、そして「近距離恋愛」の行き着く先を見守ってみませんか?

ちなみに本作は急逝したシドニー・ポラック最期の出演作でもある。

『愛と哀しみの果て』『ザ・ファーム/法律事務所』といった監督作に加え、『アイズ ワイド シャット』や『フィクサー』などで俳優としての側面も垣間見せたポラック。『近距離恋愛』で魅せる彼の”いぶし銀”のプレイボーイ(?)ぶりに、あなたは思わず快心の笑みを浮かべてしまうことだろう。

あらためて、映画界における彼の業績を心から讃えたい。

映画「近距離恋愛」オフィシャルサイト
http://www.sonypictures.jp/movies/madeofhonor/
恋人よりも大好き。それでどうして友達のまま?
(C) 2007 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved
7月12日(土)より日比谷みゆき座ほか全国ロードショー

【映画ライター】牛津厚信

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2008年7月11日 by p-movie.com

レッドライン

080703_redline_01.jpgウォシャウスキー兄弟監督の「スピードレーサー」が話題になってる中、 同じカーレースの作品「レッドライン」。カーアクションの大好きなアメリカ、日本としては期待大とされるはずの2作品である。この2本をどう楽しめるかはどちらとも観ないと味わえない。もちろん「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟監督の見応えあるCGに大きな期待を寄せるのはもちろんのことだ。だが、本作「レッドライン」はアニメが基となっているわけじゃない。現実に誰もが欲しがるような憧れの車、エンツォ・フェラーリやメルセデス・ベンツSLRマクラーレンといった高級車が走る、走る。そして飛ぶ…。
飛ぶというのも大袈裟だが、映像の90パーセント以上がCGではなく実写で走りクラッシュするのだ。そのクラッシュ事体が本物のスポーツカーを目茶苦茶にしてしまうのだからリアル感がたまらない。

080703_redline_02.jpg物語は、皮肉にも高級スポーツカーをこよなく愛するお金持ち達の賭博レースが主軸となっている為、コメディのような展開もある。ただ、歌手になりたい一心でバンド活動に勤しむ女性ナターシャ演じるナディア・ビョーリンのスーパーモデルのような美しさには目が眩む。さらに父親がレーサーだったせいか、ナターシャのカーテクニックの凄腕にも注目したい。スポーツカーのラインの美しさとナディア・ビョーリンの美しさ、そして実写というリアルな視点が絵画のような作品に仕上がってることを一度は体感して欲しい。

 
映画「レッドライン」オフィシャルサイト
http://www.red-line-movie.jp/
限界突破!
(C)2007 RL Films,LLC.All Rights Reserved.
7月5日より丸の内プラゼール系全国ロードショー

【映画ライター】佐藤まゆみ

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2008年7月3日 by p-movie.com

インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国

『最後の聖戦』から19年。
080623_indy.jpgすっかり還暦越えしたジョーンズ博士が帰ってきた!
ご無沙汰ぶりのブランクも何のその、あのテーマ曲さえ鳴り響けば気分はすぐに冒険モードへ突入。
まるで同窓会のようなミステリー・ツアーが、いま幕を開ける!

時は1950年代。米ソ対立の激化するさなか、全知全能への鍵が隠された秘宝”クリスタル・スカル”をめぐって、平均年齢60歳強の”チーム・インディ”とケイト・ブランシェット率いるソ連特殊部隊が猛チェイスを繰り広げる。

なにやら見覚えのある米軍基地でスタートする本作は、時代設定もきっちり3作目から19年後。
本作はその記憶の隔たりを、圧倒的な情報量のパロディ、オマージュ、デディケイトで颯爽と埋めていく。

もちろんシリーズ3部作からの引用は盛りだくさん。
それどころか『激突!』『アメリカン・グラフィティ』『未知との遭遇』『●●』…という、ルーカス&スピルバーグの初期代表作の記憶さえもがここには無尽蔵に散りばめられているのだ。

ちなみに注目のハリソン・フォードのアクションは、ボディ・ダブル(スタント)と編集技術(素早いカットの切り替えし)、さらにはルーカス印の特殊工房が一丸となって、年齢を感じさせないヒーロー像を完全にバックアップ。

でも改めて思うのだが、このシリーズって、アクションよりもやっぱり俳優のリアクションにこそ命が宿っている。

インディが新たな冒険と出くわし目をデッカク見開くような表情。
あれが健在な限り、彼は絶対に死なない。
70才になっても80才になっても、インディ・ジョーンズは今と同じくフェドーラ帽をかぶり、そして鞭を振るっていることだろう。

実のところ『クリスタル・スカルの王国』が今の若い子たちにとって訴求力を持つかどうか不安でもある。
最近のアクション映画のほうがよっぽどアイディア満載だし、アドレナリンだって湧き上がらせてくれる。

しかし『インディ・ジョーンズ』にはその分”記憶”が詰まっている。
この19年をつなぐ尊い記憶の数々が。

「いろいろあったけど、また逢えて嬉しいよ!」

本作は何よりまず、昔ながらのキャストやスタッフからのこんな陽気な挨拶のような気がしてならない。

彼らの呼びかけに、あなたはどんな笑顔で応えるだろうか?
その笑顔はあなたの大切な19年史、そのものかもしれない。

http://www.indianajones.jp/top.html
6月21日(土)全国ロードショー
TM&(c)2008 Lucas films Ltd,. All Rights Reserved.

【映画ライター】牛津厚信

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2008年6月23日 by p-movie.com

JUNO ジュノ

16才で妊娠してしまった女子高生ジュノ。
080613_juno.jpg悩んだ末に「産む!」と決めた彼女にはとても険しいイバラの道が…なーんてありきたりな受難劇はいっさいなし。
これはジュノのお腹と共にどんどんハッピーが膨らんでいく、とびきり爽やかなポジティブ・ムービーだ。

「77年は音楽史で最も重要な年!」と言うほどパンク好きで、B級ホラーも大好き。
そんな具合に同世代とはちょっと変わった女の子ジュノは、ほんの出来心で親友ポーリーとセックスを交わし、その後、妊娠チェッカーで驚きの結果を手にしてしまう。

はじめは中絶を考えた彼女だったが、病院の前で「中絶反対!」を訴えていた同級生の「お腹の子にはもうツメとか生えてるのよ!」という言葉が引っかかり、「ツメが生えてるなんて…なんかスゴい!」と小さな生命への愛情を確かなものにする。

かくして、ジュノの出産大作戦が幕を開けた。

彼女のすごいところは、目の前のあらゆる原因と結果をポジティブに受け止め、決して安易に絶望したりしないところだ。
周りの家族や友人たちも彼女の決定を最大限に尊重してくれる。
とくに両親の応援にグッとこない人はいないだろう。
パパは何かと影でジュノを支えてくれるし、これまで年頃のジュノに遠慮して距離を置いてきた義理のママも、思わぬところで”母の強さ”を見せ付けてくれる。

そうやって生命誕生の歯車が大きく回転を始める。
こんなにも素敵な人たちに愛されながら生まれてくる赤ん坊に、いつのまにか僕らまでもが心から祝福を捧げずにいられない。

偉大なコメディ監督を父に持つ俊英ジェイソン・ライトマン監督は、多くのフィルムメーカーが”絶望”や”混沌”といったテーマと格闘するこの暗黒時代に、こんなにも笑いと愛に満ちた作品で”未来”をみつめようとした。

そこにエレン・ペイジ(主演)と、ディアブロ・コディ(脚本家)という才能が掛け合わさって、まるでひとつの生命が産み落とされるかのように、思いっきり祝福されるべき映画が完成したのだ。

とりわけ、元ストリッパーで、ブロガーでもあり、本作でオスカーを獲得した新生脚本家ディアブロの誕生には、誰もが賞賛を惜しまないだろう。

とにかくこの映画に触れると、とびきりの愛と元気をもらえる。

“誕生”とはつまり、それほどまでに爆発的なエネルギーをともなう、奇跡的な瞬間のことなのだ。

公式サイト:http://movies.foxjapan.com/juno/
6月14日よりシャンテシネ、渋谷アミューズCQN、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
© FOX and its related entities. All right reserved.

【映画ライター】牛津厚信

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2008年6月13日 by p-movie.com

1978年、冬。

その年、文化大革命は終わりを告げた。
080612_1978win.jpg凍てつく寒さの田舎町・西幹道ではいまだ街のあちこちに革命期のスローガンが残り、人々は新しい時代とどう向き合うべきかまだ分からずにいる。

そんなさなか、北京から清楚な少女が越してくる。
洗練された身なり、聞きなれない言葉づかい。
少女のすべてに都会の匂いがあふれる。そして彼女がひとたび講堂で可憐な舞踊を披露したとき、ふたりの兄弟の心が大きく揺れ動いた。
彼らは瞬く間に恋に落ちてしまったのだ。

まだ幼い弟は踊る彼女を懸命にスケッチし、一方、工場をサボってばかりいるダメダメな兄貴はひどく屈折した感情を彼女にぶつけてしまう…。

遠い土地の話なのに身近に感じる。
そしてなぜだかとってもあったかい---そう感じてしまうのは、主役の3人が演技と思えないくらい”リアルな存在”だったからだろう。
もう笑っちゃうくらいに不器用で、やることなすこと裏目に出てしまう彼ら。
シリアスとユーモアの混在するとてもセンシティブな領域で、仏頂面の胸の内を繊細なカメラワークが絶妙にすくい取っていく。
そして彼らの心象を、いま機関車が通過する。
あらゆる思い出はこの車窓から見える風景の中で色を帯びていった。いつしか本当の愛に気づく兄。口やかましくも愛情にあふれた母。朴訥な父。そして儚げな少女…

個性あふれる人々の喜怒哀楽を乗せて、機関車は今また郷愁の汽笛を鳴らす。
そのたびに僕らの心はなんだかとても切なくなって、時代も国も違うのに、懐かしい香りでいっぱいになる。

ちなみに本作は、昨年の東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。グランプリがすでに世界的に評価されていた『迷子の警官音楽隊』だったことを考えると、『1978年、冬。』こそ映画祭いちばんの発見だったと言い得るかもしれない。

たまたま公式上映に居合わせた僕は、観客の間で巻き起こった感情のうねりに心底驚かされた。
上映が終わっても誰も席を立たないのだ。
皆がホッと優しい溜息をつきながら、この映画の誕生を心から祝福していた。
誰の心にも西幹道に代わる青春期のリアルな思い出がある。『1978年、冬。』は、そんな心の秘部にキュンと触れる、極上のハートフル・ムービーである。

公式サイト:http://www.1978-winter.com/
6月14日(土)より渋谷ユーロスペースにてロードショー
(C)2007 China Film Group Corporation & Wako Company Limited

【映画ライター】牛津厚信

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2008年6月12日 by p-movie.com