天使と悪魔

キリストの聖杯伝説にまつわる謎を描き、
世界中で大ヒットした「ダ・ヴィンチ・コード」から3年。
トム・ハンクス演じるラングドン教授が、
再びキリスト教の総本山ヴァチカンを揺るがす危機に挑むサスペンスミステリー。

090518_angel-demons_main.jpgキリストの秘密を解き明かしたロバート・ラングドン教授(トム・ハンクス)のもとに、
ヴァチカンから使者が訪れる。
キリスト教と対立してきた太古の秘密結社”イルミナティ”から、
復讐を予告するメッセージが送られてきたという。
ちょうどこの日、ヴァチカンでは教皇選出の選挙”コンクラーベ”が開催されていた。
全世界が注目する中、イルミナティは教皇候補者4名を誘拐、1時間毎の殺害を予告。
さらに、核兵器以上の威力を持つ”反物質”をヴァチカンのどこかに隠し、
深夜12時に爆発させるという。
ラングドンは、反物質を開発した女性科学者ヴィットリア(アイェレット・ゾラー)、
司祭カメルレンゴ(ユアン・マクレガー)の協力のもと、
4人を救い出し、爆発を阻止できるのか…!?

090518_angel-demons_sub01.jpg小説を映画化するとき、どこを残してどこを省略するかということが大きな問題になる。
本作の原作も、手に汗握るサスペンスでありながら、
宗教と科学の対立という奥深いテーマを内包した見事な作品である。
一歩間違えるとその持ち味を失い、遠くかけ離れたものが出来上がってしまう。
そこで本作は、原作にあるいくつもの見どころの中から、
教皇候補者誘拐の謎解きを中心に映画化。
映画オリジナルの人物も登場し、スリリングなノンストップサスペンスに仕上がった。
その効果が如実に現れているのが序盤。
原作ではラングドンは反物質を開発したセルン(欧州原子核研究機構)を経由して
ヴァチカンへ赴く展開になっているが、このくだりが結構な分量。
映画ではこのエピソードを省略。
早々にヴァチカンに移動することで、展開をスピーディーにし、
見るものを一気に引き込んでしまう。

090518_angel-demons_sub02.jpgまた、描かれる物語はほんの数時間の出来事だが、小説の進み方は読む人まかせ。
それに対して、時間経過がリアルタイムに近く、
よりスリリングな感覚が味わえるのも映画ならでは。

主人公のラングドン教授も、原作からややアレンジ。
小説では007顔負けの激しいアクションを見せるが、ちょっとやりすぎの印象。
映画ではこれを整理。アクションは他の人物に譲り、知的な面を強調することで、
より学者らしくなっている。

前作「ダ・ヴィンチ・コード」はかなり原作に忠実な映画でありながら、
詰め込みすぎの感があった。
本作はその反省を踏まえ、映画用に思い切った再構成を行うことで、
よりエンターテイメントとしての面白さに磨きをかけた作品といえる。

そして最後に一つ。
製作上の都合と思われるが、原作で描かれている犯人に関する重要な秘密が、
映画では省略されている。
その内容を知りたい方は、ぜひ小説を読むことをオススメしたい。
より深くこの作品を楽しめるはずだ。

090518_angel-demons_sub03.jpg映画「天使と悪魔」
オフィシャルサイト:http://angel-demon.jp/
ガリレオの暗号が、ヴァチカンを追いつめる
2009年5月15日(金)全世界同時公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年5月18日 by p-movie.com

島田洋七の佐賀のがばいばあちゃん

シリーズ累計670万部の大ヒットを記録、
TVドラマ、映画、舞台にもなった島田洋七の小説を、
原作者自らメガホンを取り再映画化。
爽やかな涙と笑いが溢れる人情ドラマに仕上がった。
佐賀の田舎に預けられた少年と型破りなおばあちゃんの、
貧しくも明るく楽しい日常を描く。

090430_gabai-ba-chan_main.jpg昭和33年。広島に住む昭広少年(小学1年時:森田温斗、
小学3年時:瀬上祐輝)は、母親の仕事の都合で、
佐賀のおばあちゃん(香山美子)の家へ預けられることに。
ところが、このおばあちゃんは超がつくほどの貧乏。
しかし、持ち前の知恵と工夫で明るく楽しく生きるおばあちゃんに影響され、
昭広は逞しく成長していく。

原作がベストセラーになった時、
話題になったのはおばあちゃんの逞しい人柄だった。
鉄くずを集める磁石を腰からぶら下げて町を歩いたり、
川から流れてくる野菜を集めたり。
前回の映画もその型破りな行動を重視した作りだったが、
ややオーバーな印象があった。
今回はそういう部分は控え目に、
おばあちゃんと孫の愛情あふれる生活を丁寧に描き、
ホロリとさせる作品に仕上がっている。

原作者自ら監督する場合、思い入れが強くなりすぎ、
観客が置いてきぼりにされてしまうことがしばしば。
だが、お笑いで鍛えた長年の経験からか、
初監督にもかかわらず島田洋七はそのあたりをよく心得ているようだ。
原作者らしいこだわりが随所に感じられる一方で、
観客を無視した思い込みの強さもなく、見る側にとっても心地よい。

吉行和子や泉ピン子が主演したこれまでの映画やTVドラマとは異なり、
おばあちゃん役には一見、タイプではない香山美子を起用。
だがそれが逆に役者の印象を消して”本当におばあちゃんがいる”
という雰囲気を醸し出している。

おばあちゃんの家も、セットではなく年季の入った本物の民家を借りて撮影。
その古さは”スタッフが入ったら床が抜けた”というから相当なもの。
だが、その甲斐あってCGを使った映画では得られない
“昭和の家”のリアルな空気が画面全体に漂っている。

中学で野球部に入った昭広が活躍する試合シーンも本格的。
走者が一塁から二塁へ走る場面。
普通なら細かくカットを割るところだが、本作ではワンショット。
本当に野球を見ているような感覚だ。
野球経験者を集めたからこそ可能なことで、
こんなところにも監督のこだわりが見て取れる。

物語の大筋は以前と変わらないのに涙腺を刺激されるのは、
こういった細かいこだわりから来る”本物感”の効果だろう。
母親役が高島礼子というのは願望が出すぎだが、そこはご愛嬌。
前回の映画で泣いた人も泣けなかった人も、
ぜひ映画館に足を運んで、その目で確かめてほしい。
きっと自分のおばあちゃんに会いたくなるはずだ。

090430_gabai-ba-chan_sub.jpg映画「島田洋七の佐賀のがばいばあちゃん」
オフィシャルサイト:http://gabai-ba-chan.oklife.okwave.jp/
苦労はしあわせになる為の準備運動たい!!
2009年4月25日(土)より東京:銀座シネパトス先行、5月全国ロードショー
(C) 島田洋七の「佐賀のがばいばあちゃん」製作委員会・2009


【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年4月30日 by p-movie.com

レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦-

構想から18年、総製作費100億円を投じて「M:I-2」のジョン・ウー監督が
壮大なスケールで三国志を映画化した2部作の完結編。
昨年公開され、興収49億円を叩き出す大ヒットとなったpart1に続き、
いよいよ三国志最大の激戦”赤壁の戦い”が幕を開ける。
 
090410_redcliff2_main.jpgpart1で曹操に対して協同作戦で勝利を得た周瑜(トニー・レオン)、
孔明(金城武)率いる孫権・劉備連合軍。
雪辱に燃える曹操(チャン・フォンイー)は2000隻の軍艦を率いて赤壁に陣取る。
だが、水上の戦に不慣れな曹操軍には病気が蔓延、兵士が次々と倒れてゆく。
この逆境を利用して一計を案じる曹操。
その策略は的中し、劉備軍は孔明を残して撤退に追い込まれる。
兵力を割かれた孫権軍は孤立。
圧倒的不利な状況の中、周瑜、孔明らは知力と互いの信頼を持って曹操に立ち向かう。

何といっても見どころはクライマックスの赤壁の戦い。
長江が燃え上がる中、両軍の死力を尽くした戦いの様子が圧倒的な迫力で描かれる。
孔明の知力を物語る名エピソード”10万本の矢”も登場。
冒頭に簡単な説明が付くので、part1を見ていない人でも問題なく楽しめる。
 
090410_redcliff2_sub02.jpg日本人が慣れ親しんできた三国志とは違い、本作では赤壁の戦いを
孔明の独壇場とは捉えていない。
周瑜、孫権、尚香、小喬など登場人物それぞれに活躍の場を与え、
全員が協力することで強大な曹操軍に立ち向かう物語としている。
そこで描かれるテーマは”信頼と友情”。
殺伐とした世の中にジョン・ウー監督が太古の英雄たちの物語を借りて伝えるのは、
人間同士の信頼が未来を切り開く力になるというメッセージだ。

吉川英治の小説や横山光輝の漫画とは展開が大きく異なり、
三国志ファンの中には違和感を覚える人もいるだろう。
だが、吉川版、横山版が存在するのと同様、本作は”ジョン・ウー版三国志”。
元々、数多くの三国志作品の原点”三国志演義”も歴史書を脚色した物語である。
ジョン・ウー流の三国志が存在してもいいはずだ。

そもそも日本人にとって三国志の魅力とは、
“中国を舞台に、数々の武将・豪傑が繰り広げる壮大な歴史ロマン”ではないだろうか。
だとすれば、劉備、関羽、張飛、趙雲ら名だたる武将たちがこぞって活躍する
「レッドクリフ」は、少しもその精神から外れるものではない。
むしろ、三国志を知らない人たちにもその魅力が伝わるように、
“三国志のエッセンスを集約した超大作”と呼ぶ方がふさわしい。

いずれにしても、このスケールで三国志を映像化した前例がないのは事実。
「トロイ」や「グラディエーター」などのヨーロッパ史劇を見る感覚で
ジョン・ウー版三国志を楽しんでほしい。

090410_redcliff2_sub01.jpg映画「レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦-」
オフィシャルサイト:http://redcliff.jp/index.html
赤壁で、激突。 -信じる心が、未来を変える。
2009年4月10日(金)より、TOHOシネマズ 日劇ほか全国超拡大ロードショー
(C) 2009, Three Kingdoms, Limited. All rights reserved.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年4月10日 by p-movie.com

パラレル 愛はすべてを乗り越える―。

交通事故で将来を絶たれた元サッカー選手が、献身的な妻に支えられ、
車椅子バスケットの選手としてパラリンピックに出場するまでを、実話をもとに描く。
北京パラリンピックの日本選手団主将だった京谷和幸氏夫妻がモデル。
ドラマ「RESCUE  特別高度救助隊」の要潤と
歌手として活躍する島谷ひとみの共演で爽やかな感動を呼ぶ。

090306_parallel_main.jpgJリーグで活躍するサッカー選手の京谷和幸(要潤)は、
チアガールの三木陽子(島谷ひとみ)に一目惚れ。
強引なアプローチに陽子は戸惑うが、まっすぐな性格の和幸に魅かれ、
やがて結婚を決める。
だが結婚式前日、和幸が交通事故に。
一命は取り留めたものの、歩くことができなくなってしまう。
自暴自棄になる和幸。
陽子は和幸の母に結婚を解消するよう説得される。
だが陽子の和幸への愛情はその後も変わることなく、2人は結婚する。
やがて、和幸は車椅子バスケのコーチ近藤(細川茂樹)と出会い、
パラリンピックを目指さないかと誘われる。

物語は2部構成で展開する。
和幸と陽子が出会い、愛を育んでいく前半。
そして、事故に遭った和幸が陽子に支えられ、
車椅子バスケの選手として再起するまでの姿を描いた後半。
中でも印象的なのは前半。
ごく普通にデートを重ねていく2人の姿は、
“闘病もの”というよりもラブストーリーそのもの。
大事な一人娘の陽子を奪われるものかと結婚に反対する父親なども登場、
コミカルな雰囲気すら漂わせる。

一見、前半は本筋とは関係ないかのように思える。
だが、事故前の和幸の姿を描くことで、
障害者も健常者と同じ普通の人間だということをわかりやすく伝える。
障害者だって、ときにはわがままも言えば、甘えた面も見せるときもある。
2人が支えあうときもあれば、イライラして八つ当たりすることもある。
表裏両面をきちんと描いたことが、歩けなくなった和幸の辛さや
それを乗り越える夫婦の愛情を、より印象深いものにしている。

また、主演の要潤と島谷ひとみ、2人の好演も忘れてはならない。
障害者という重い題材を扱いながら、
湿っぽくならず、爽やかささえ感じさせるのは2人の功績大。
近年まれに見る爽やかなカップルの姿に、目頭が熱くなった。

中国の故事に「人間万事塞翁が馬」という言葉がある。
一見悪い出来事でも思わぬ幸運をもたらしてくれる、
人生何が幸いするかわからない、という意味だ。
そんなことを思い出させる京谷夫妻の姿は、
タイトル通り”全てを乗り越える”希望に溢れている。
人生に障害者も健常者もないのだ。

映画「パラレル 愛はすべてを乗り越える―。」オフィシャルサイト
http://parallel-movie.com/index.html
どんな時も変わらずに、その人を愛せますか?
2009年3月14日(土)より、シネマート新宿 他 全国順次ロードショー
(C) 2009 『パラレル』フィルムパートナーズ

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年3月13日 by p-movie.com

チェンジリング

1920年代、アメリカで実際に起きた”子供取り違え事件”を、
巨匠クリント・イーストウッドが映画化。
アンジェリーナ・ジョリーが警察の圧力に屈せず、行方不明になった息子を
捜し求める母親を熱演、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

090306_changeling_main.jpg1928年、ロサンゼルス。
クリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は1人息子のウォルターを
育てながら電話会社で働くシングルマザー。
ある日、彼女が仕事から帰ると、ウォルターが行方不明に。
5ヵ月後、必死で息子を探す彼女の元に警察からウォルター発見の知らせが。
だが、再会した少年は、息子ではなかった。
その事実を訴えるも、警察の面子を潰されたくないジョーンズ警部
(ジェフリー・ドノヴァン)は、5ヶ月の間に様子が変わっただけだ、と主張。
やむなく自宅に連れ帰るが、少年がウォルターでないことは明らか。
再び警察に訴えるクリスティンだったが…。

息子を取り戻したいと願う母親にとって、あまりにも理不尽な出来事の連続。
頼みにしていたはずの警察からは厄介者扱いされ、挙句は精神病院送り。
それでも権力に負けず、不屈の意志で息子を捜し求めるクリスティン役の
アンジェリーナ・ジョリーが素晴らしい。
実在の人物を演じるためか、帽子を目深に被り、地味目のメイクで
“ハリウッドスター”の印象は控えめ。
唯一目を引くのは、真一文字に結ばれた口元の真っ赤な口紅。
鮮烈な赤い色がクリスティンの決意を象徴する。
内面を的確に表現した装いと、アンジーの名演。
そこに抑制の効いたイーストウッド演出が加わり、クリスティン・コリンズという
人物を見事にスクリーンに再現している。

物語の舞台こそ1920年代だが、背景となる社会状況は奇妙なほど
今の世の中と似通っている。
自分たちに都合のいい論理をゴリ押ししようとする権力の姿。
劇中では語られないが、この頃はアメリカの経済破綻をきっかけに
世界恐慌に陥った時期。
イーストウッドは、製作中に現在の不況を予想していたわけではないだろうが、
その様子はブッシュ政権末期のアメリカと重なる。
そう考えると本作は、行方不明の息子を探す母親の物語というだけでなく、
80年前の事件に託したイーストウッドからのメッセージのようにも思えてくる。

歴史に名を残した人物でもなく、ささやかな幸せを取り戻そうと権力に立ち向かった
ごく平凡な1人の女性、クリスティン・コリンズ。
その姿は80年の時を越え、今を生きる我々に勇気を与えてくれるに違いない。

映画「チェンジリング」オフィシャルサイト
http://changeling.jp/
どれだけ祈れば、あの子は帰ってくるの―。
2009年2月20日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年3月6日 by p-movie.com