ヒックとドラゴン

少年はドラゴンに翼をあたえ
ドラゴンは少年に勇気を与えた

8月7日(土)新宿ピカデリー他全国超拡大ロードショー

猫も杓子も3Dという時代が訪れているが、実はこの『ヒックとドラゴン』、全米でのオープニング成績はあまり芳しいものではなかった。なるほど、3Dに“リアルなもの”を求める大人たちは、3等身のキャラクターが駆け回るこの3Dアニメの形態に時代の逆行感を抱いたのかもしれない。

が、結論から言うと、『ヒックとドラゴン』は素晴らしい作品だった。試写しながらずっと「そうそう!この感じ!」と心の中で叫び続けていた。『アバター』以来すっかり忘れかけていた3Dの陶酔感をようやく取り戻せたような気がしたのだった。もっと言うと、ドラゴンにまたがって空を駆け回るシークエンスで思わず感極まって泣きそうになった。また、急降下する風圧が3Dメガネ越しにビュンビュンと吹きつけてくるかのようで、バーチャルな息苦しさすら覚えた。

自分たちの生活を守るために日々ドラゴンと闘わざるを得ないバイキングたち。その最大の勇者とも言える父の背中を仰いで育ちながらも、その能力が発揮できない青年ヒック。村人からも「あいつはダメなやつだ」と笑われる。そんなある日、彼は、翼を痛めた「謎のドラゴン」に遭遇する。ヒックが変わり者であるように、そのドラゴンも他とはちょっと変わっているようだった。変わり者のふたりは次第に心を通い合わせる。そしていつしか、ふたりは大空を駆けまわる親友となっていた。。。

8月7日(土)新宿ピカデリー他全国超拡大ロードショー

ドラゴンは一言も言葉を発しない。その表情や仕草で感情を伝える。その表現力の豊かさ。さすが『リロ&ステッチ』の監督が手掛けただけある。そして圧倒的にアクロバティックなクライマックスを経て、エンディングに流れるのは、あの聴きなれた歌声。これは・・・アイスランドのバンド“シガーロス”のボーカル、ヨンシーじゃないですか!

北欧つながりとはいえ、このドラゴンの疾走感と彼の歌声は神秘的なまでに相性が良く、またも心の中の陶酔が立体的にどんどん膨らんでいくのを感じた。必見。

8月7日(土)新宿ピカデリー他全国超拡大ロードショー

ヒックとドラゴン
http://www.hick-dragon.jp/

(C) 2009 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

【映画ライター】牛津厚信

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2010年9月15日 by p-movie.com

アウトレイジ

全員悪人

ここ数年、作り手としての生みの苦しみをそのまま体現するかのような異形の作品を手掛けてきた北野武。TVではあんなに人気者なのに、映画となると観客の好き嫌いがはっきりと分かれてしまう。

「おれの映画は客がはいんなくて困っちゃうんだ」

とはよく聞かれる彼の弁だが、さて、カンヌ映画祭でも賛否のまっぷたつに分かれた『アウトレイジ』は、彼にとって久々のヤクザもの。海外の映画サイトをチェックすると、”Yakuza”という言葉がそのまま使われ、「キタノがホームグラウンドに帰ってきた」的な紹介が大半を占めている。

冒頭、おびただしい数の黒塗り自動車&強面の男たちが横一線に並ぶ様が映しだされる。まるで兵士だ。守るべきもののためなら平気で命さえ差し出す兵士たち。そして彼らの代表選手でもあるかのように、この映画の複数のメイン俳優たちが横一線に揃い踏みする。はたして終幕のとき、この中の何人が生き残っているだろうか。。。

このバトル・ロワイヤルは、組織の上層部のひとことでゴングを鳴らす。

「お前のシマでヤツラになめられてるんじゃねえのか?」

「はあ、すみません・・・」

この案件への対応をめぐり、ヤクザ社会の下請けへと仕事が回ってくる。ひとことで言えば「手っ取り早くケンカをおっぱじめろ」ということなのだが、互いのメンツやプライドもあるので、相手の出方の裏の裏を読んで、自分の立ち位置を決めなければならない。なんともまどろっこしい不条理感が漂う中、事態はわらしべ長者的にどんどんスケールを増していく。しかもヤクザ社会の兵隊となると、犠牲も多い。笑っちゃうほど趣向を凝らしたバイオレンス描写の嵐。覚悟を決めて向かってくる者、逃げ出す者、最後まで平然と佇む者、ほくそ笑む人々。腕っぷしの強さや度胸などここでは何の役にも立たない。

北野作品としてなにか革命的なことに取り組んでいるわけでもない。どのシーンにもハイライトと言うべき感情のうねる場所はなく、しかし逆にいえば、どこのシーンでも均等に低温の火花が弾け飛び、落ち着き払った語り口が不気味でさえある。

おびただしい数のキャラクターの誰もがこの映画の部品として機能し、誰がメインを掻っさらうわけでもなく(ビートたけし自身も、本作ではひとつの部品にしか過ぎない)、この戦いで生き残る可能性は、まさに神のみぞ知る。その意味では「誰が生き残るか分からない」=「腹の中が読めない」キャスティングは注目に値する。こんなタヌキ俳優たちをよく集めたものだ。

また、そのときの状況により自在に変化していくと言われる北野組の撮影現場(「おれ、どんどん変えちゃうからさ」という発言をこれまで何度聞いただろう)において、これまた映画の中では一部品にしか過ぎない加瀬亮の存在感を監督自身が面白がり、いくつか出番が増えた、なんて話も伝え聞く。ガス・ヴァン・サントの新作にも出演する加瀬。本作では澱みのない英語を操る希少なインテリ極道を演じる。映画界で定着しつつあった彼のイメージをここまで豹変させられたのも、マイスター北野武との信頼関係あってのことだろう。

彼のみならず、『アウトレイジ』からは役者たちの身体から「北野組に参加できてうれしい!」という思いが滲み出ている。芸達者な彼らがまるで新人俳優のように競い合っている姿を堪能できるのも、今の邦画界では本作くらいではないだろうか。

「アウトレイジ」
2010年 日本

公式サイトアドレス
http://office-kitano.co.jp/outrage/main.html
6月12日全国ロードショー

【映画ライター】牛津厚信

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2010年6月15日 by p-movie.com

アイアンマン2

ヒーローになった男、トニー・スターク。次なる試練。

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俳優ロバート・ダウニーJr.を再起復活させたご利益抜群のヒーロー、アイアンマン。その登場はヒーローの人間臭さがリアリティを伴ってスクリーン上を席巻しはじめた、まさに映画史のターニング・ポイントとなった。

あれから2年、ダウニーJr.が再びレトロなパワード・スーツに身を包んで帰ってくる。今回のトニー・スターク(=アイアンマン)はかなり調子に乗っている。チョイワルぶりを加速させ、自身のバースデー・パーティーでは招待客の面前でパワードスーツを着たままイチモツをさらけ出そうともする(なんてことだ!)。自身が主催する科学万博やそれにカーレース・サーキットでも大勢の観衆を圧倒し、煙に巻き、そのセレブぶりを乱用。米議会の公聴会では「私が核抑止力だ!」と高飛車な発言を連発する。

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確かに今現在このオジサマ俳優を止められるものなど他にはいるまい。ダウニーJr.とトニー・スタークは前作以上に寸分違わぬリアリティで繋がっている。しかし彼は気付いていなかった。遥か彼方ロシアからもっと獰猛なオジサマ俳優が彼の生命をつけ狙っていることを。。。

その男こそミッ
キー・ローク。まるで『レスラー』の”ザ・ラム”が改心どころか改悪してアイアンマンに戦いを挑んでいるかのような、チョイワルどころか極悪っぷり。最強の敵”ウィップラッシュ”として、縄跳びみたいな紐を両手でビュンビュン振り回すという、いささか洗練さに欠けた攻撃が持ち味だ。これに猫パンチが加われば、ここにもミッキー・ローク=ウィップラッシュという等身大の役作りが成立する。ヒーローもヒーローなら悪役も悪役。スクリーン上でも正直さが物を言う時代がやってきているのだ。

事態はいつしか最強のオジサマ旋風に呑み込まれる。俺も、俺もと言わんばかりにドン・チードル、サム・ロックウェル、サミュエル・L・ジャクソンが揃い踏み。むせかえるほどの加齢臭を漂わせながら、ハイテク・ガジェットVFXを凌ぐほどの演技バトルが繰り広げる。特にロックウェルに関しては、実はもともと彼もアイアンマン候補に挙がっていたことから、主人公に対するネチっこさはひとしおだ。一方、サミュエルの出番は2シーンのみだが、次回作として起動しはじめたマーヴェル・ヒーロー大集合ムービー『アヴェンジャーズ』の伏線としてスタークを仲間に引き入れようと誘いをかけてくる。

そして、くせものなのはジョン・ファーヴローだ。この映画の監督にして名バイ・プレイヤーでもある彼が、前作以上に自分の出演シーンを用意して暴れている。もうあわよくば俺も次回作でアヴェンジャーズに編入させてくれよ!と主張せんばかりに。しかし誰も口は出せまい。だって彼は本作の製作総指揮でもあるのだから。

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まあ、アフガニスタンの監獄でゼロからロボをこしらえて脱出してみせた前作の圧倒的な面白さに比べると、今回はストーリー的に弱めであることは否めない。中盤は対戦アクションがごっそり抜け落ち、いささか説明的に陥ってしまう。しかし考えてもみてくださいよ。イケメン若手が大挙出演するシリーズが世界的にもてはやされる時代で、こんなにもオジサマ方が頑張ってる。なんだかそれだけで満足できる。これは映画界にとってもかなり画期的なことなのだ。

「アイアンマン2」

2010年 アメリカ
公式サイトアドレス
http://www.ironman2.jp/
6月11日(金)全国超拡大ロードショー

【映画ライター】牛津厚信

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2010年6月15日 by p-movie.com

グリーン・ゾーン

114分間、あなたは最前線へ送り込まれる。

review-0518-01.jpg“ジェイソン・ボーン”シリーズの最強タッグ、再び。本作はシリーズの続編ではないものの、そこで培った手法や息遣いを更に進化させた戦争アクションであり、アメリカ主導で突入したイラク戦争が「大量破壊兵器はなかった」という結論に至るまでの”ありえたかもしれない”物語でもある。

実は本作、全米公開時に不発だった。製作費1億ドルの大作なのにもかかわらず、米国内だけでカバーできた興収が3500万ドル。世界興収も累計8000万ドル未満にとどまっている。

この結果に関係者は大いに落胆した。作品が当たらなかったから、というよりも、批評家やメディアに高評価だったにも関わらず、肝心の観客が振り向いてくれなかったからだ。

ここにはまず「イラク戦争モノはヒットしない」とするジンクスがそのまま反映され、なおかつ全米公開のタイミングがオスカー受賞作『ハート・ロッカー』が旋風を巻き起こしている真っ只中だったこともあり、消費者にとって「第2の戦争モノ」など眼中にも入らなかった可能性が伺える。

作品の高評価は時流やジンクスを越えられなかった。だが製作者らにとってもこれが厳しい戦いとなることは初めから分かっていたはず。それでもなお切り込まざるを得なかったのは、そのキャリアをジャーナリストとしてスタートさせ、世界の紛争地域を取材してきたポール・グリーングラスの条件反射とも言える決断にあったのだろう。つまり、この戦争を描かずして、彼は前に進めなかったのだ。

彼の語り口は事件と観客の壁を取り払い、観客をこれまでにない臨場感の渦中へ突き落とす。ドキュメンタリー・タッチの社会派サスペンス『ブラディ・サンデー』『ユナイテッド93』、それにアクション映画に革命を起こした『ボーン・スプレマシー』&『ボーン・アルティメイタム』。どちらも臨場感は群を抜き、たとえ作りものであろうとも、そこに表出する真実の空気を活写しようとする執念が感じられる。

review-0518-02.jpgそして『グリーン・ゾーン』もこれまでのフィルモグラフィーを総決算にふさわしい迫真の映像になり得ている。追われる側から追う側へ。細かな糸口から真相に近づこうとするマット・デイモンの姿にも、この戦争を内部の側から問い直そうとする気概を感じる。またタイトルの”グリーン・ゾーン”が戦闘下における安全地帯を意味することから、陥落後のバグダットがアメリカ軍によってどのように扱われていたかについてもニュース映像以上に興味深い視覚体験を提供してくれる。

ただし、『ユナイテッド93』や『ハートロッカー』の撮影監督バリー・アクロイドのハンディカム映像は迫真の臨場感をもたらす一方、クライマックスのチェイスでかなり手ブレが激しくなる。うっかり船酔いに陥らぬよう、充分に睡眠を取ってから映画に参戦されることをお勧めしておく。

「グリーン・ゾーン」
2010年 フランス/アメリカ/スペイン/イギリス
カラー
1時間54分

【スタッフ】
監督・製作: ポール・グリーングラス
製作: ティム・ビーヴァン / エリック・フェルナー / ロイド・レヴィン
製作総指揮: デブラ・ヘイワード / ライザ・チェイシン
原案: ラジーフ・チャンドラセカラン
脚本: ブライアン・ヘルゲランド
撮影: バリー・アクロイド
音楽: ジョン・パウエル

【キャスト(声)】
マット・デイモン
グレッグ・キニア
ブレンダン・グリーソン
エイミー・ライアン
ジェ イソン・アイザックス

配給:
東宝東和

(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

http://green-zone.jp/
5月14日(金)TOHOシネマズ スカラ座ほかロードショー

【映画ライター】牛津厚信

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2010年5月17日 by p-movie.com

劇場版TRIGUN(トライガン) -Badlands Rumble-

そう、その男の名は、ヴァッシュ・ザ・スタンピード―

cut_01.jpg2007年まで12年に渡って月刊誌に連載された人気漫画家、内藤泰弘の星雲賞受賞作を映画化。
荒野の惑星を舞台に、伝説のガンマンの活躍をアクションと笑いのてんこ盛りで描く純度100%の痛快エンターテイメントアニメ。
超絶ガンテクニックを持ちながらラブ&ピースをモットーとする主人公ヴァッシュのキャラクターが出色。

砂塵渦巻く荒野の惑星。西部開拓時代の米国さながらの世界で、人々は点在する街に暮らしていた。
その街の一つを大強盗ガスバック(声:磯部勉)が襲撃するとの噂が流れる。
街の防衛のために各地から集められる賞金稼ぎたち。
その中には、行く先々で混乱と破壊を呼び、”ヒューマノイド・タイフーン”と恐れられる
賞金首ヴァッシュ・ザ・スタンピード(声:小野坂昌也)の姿もあった。
だが、ヴァッシュの素顔はお調子者で女好きの平和主義者。
道中知り合った女賞金稼ぎのアメリア(声:坂本真綾)を呑気に追い掛け回していた。
やがて現れるガスバック一味。
大銃撃戦の最中、ヴァッシュ、ガスバック、アメリア、それぞれの秘めた想いが交錯する…。

cut_03.jpg世界観はSFながら、そこで繰り広げられるのは、西部劇さながらの銃撃戦。
SFマインド溢れる銃器とミックスされたレトロフューチャーなビジュアルと派手なアクションが楽しい。
純粋な娯楽作品なので、コーラとポップコーンを脇に置いて気軽に楽しむことができる。
原作漫画を知らない人にも配慮されており、映画で初めて作品を知った人でも問題ない。

だが本作がユニークな点はSF的世界観よりも、
真紅のロングコートがトレードマークの主人公”ヴァッシュ・ザ・スタンピード”のキャラクターにある。
伝説のガンマンという評判とは裏腹に、ヴァッシュは絶対に人を殺さない。
たとえ自分を狙う犯罪者であっても、絶対に人の命は守り抜く。
その理由はヴァッシュ自身が劇中で語る。
“だって、生きている方がいいじゃないですか。”
単純明快な答えだが、今までそれを徹底した作品はあっただろうか。
もちろん、それが甘い考えだと批判される場合もあるが、彼はポリシーを曲げない。
犯罪者を助けることで、悲しい思いをする人間が出てくることも承知の上で、その責任まで抱え込もうとする。
反戦、不戦をテーマに掲げていても、大半の主人公たちはやむを得ない犠牲として敵を倒してきた。
だが、ヴァッシュはそうしない。
相手の弾丸に自分の弾丸を当てて弾道を逸らす、一瞬で相手の拳銃の弾丸を抜き取る…。
彼の超絶ガンテクニックは、人の命を救うためのものなのだ。

cut_02.jpg今までヒーローは、悪を倒すために誰よりも強くなければならなかった。
だがヴァッシュは人並み外れたガンテクニックを、強さの誇示ではなく、誰よりも深い優しさの表現に使う。
強さより優しさ。その根底あるのは性善説。
“肉食系、草食系”という言葉が市民権を得た今日、積極的に敵を倒す従来のヒーローを”肉食系”とすれば、
ヴァッシュを21世紀型の”草食系ヒーロー”と呼んでもいいかもしれない。
人命が軽視される今の時代、強さの裏に隠れたヴァッシュの優しさが胸に残る良作だ。

「劇場版TRIGUN(トライガン) -Badlands Rumble-」
2010年 日本映画
カラー 90

【スタッフ】
監督:西村聡
原作:内藤泰弘
原案:内藤泰弘 、 西村聡
キャラクター・デザイン:吉松孝博
音楽:今堀恒雄
メカニックデザイ ン:神宮司訓之

【キャスト(声)】
ヴァッシュ・ザ・スタンピード:小野坂昌也
ニコラス・D・ウルフウッド:速水奨
メリル・ストライフ:鶴ひろみ
ミリィ・トンプソン:雪野五月

配給:クロックワークス
© 内藤泰弘/少年画報社・トライガン製作委員会

2010年4 月24日(土)より全国ロードショー
公式HP:http://www.trigun-movie.com/

【映画ライター】井上健一

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2010年5月14日 by p-movie.com