自分の生命を蝕むガンと次の世代に命をつなぐ出産。
正反対のこの二つが同時に訪れたとき、女性はどのような決断を下すのだろうか。
そんな女性の姿を通じて、生命の尊さ、美しさを再確認する作品だ。
外科医として第一線で活躍する百田滴(ももたしずく:松雪泰子)は、
結婚10年目にして待望の赤ちゃんを授かる。
フリーカメラマンの夫、良介(椎名桔平)とともに喜んだのも束の間、
過去に全摘出手術で治療したはずの乳ガンを再発。
新たな命をとるか、自分の命をとるか、滴は大きな決断を迫られる。
そしてそれは、赤ちゃんの誕生を楽しみにする良介に告げることのできない
事実だった…。
「男女7人夏物語」から近作「SCANDAL」まで、テレビドラマを中心に
活躍を続けるベテラン、生野滋朗監督が谷村志穂の小説を映画化。
南国・奄美地方でのロケを実施、癒しを感じさせる優しい映像の中、
残り少ない人生を生き抜く女性の姿を力強く描く。
滴は過去に乳ガンを患っており、全摘出手術を受けている女医、というところが
大きなポイント。よくある”闘病もの”のようにガンと戦う姿をドラマチックに描くのではなく、
自分の余命を知った女性の内面を描いている点が特徴である。
滴にはガンの経験もあり知識もある。
つまり、告知されなくても自分の先行きが見えてしまっているのだ。
命懸けの出産で新たな命を残すか、自分の延命のために治療に臨むか。
松雪泰子の繊細な演技とモノローグが、重い決断に悩み、迷いながらも
生き抜こうとする滴の姿を描き出す。
また、わずかなシーンだが、摘出手術の傷跡や炎症なども
隠さずに映し出すことで、ガンの怖さを明確にし、滴の意志の強さを印象付ける。
一方、子供が生まれることを喜んでいた夫、良介は出産後に滴のガン再発を知る。
だが、彼は事実を伏せていた滴を責めることなく、優しく抱きしめる。
ここに至るまでの妻の悩みや苦しみを思いやって。
果たして世の男性は、自分の愛する人が命を縮めることを承知で
子供を産んだとしたら、良介のように接することができるだろうか。
あなたが女性で、滴の立場だったら、どちらを取るだろうか?
また、男性だったら良介のように愛する人の決断を静かに受け入れられるだろうか?
ぜひ、愛する人と一緒に観て、相手を思いやることの大事さ、
生命の尊さについて考えてほしい。
映画「余命」オフィシャルサイト
http://www.cinemacafe.net/official/yomei-love/index_pc.html
君に届け いのちへの想い
2009年2月7日(土)全国ロードショー
(C)2008「余命」製作委員会
【映画ライター】イノウエケンイチ