2012

その被写体として常に人類未体験の脅威を必要としてきたローランド・エメリッヒ。サイボーグ、宇宙人、怪獣、自然災害…。映像開発のハードルをひとつひとつクリアし、そこで得たサンプルを次に応用することで、映画におけるVFX技術の革新に大きく貢献してきた。そんな彼が決して同時代に生きる人間を敵としないのは、かつて米ソによって東西に引き裂かれたドイツを母国とするからなのだろうか。

2012-01.jpgエメリッヒが見せるビジョンは常に驚愕とともにあった。その功績に観客が熱狂する一方、とある批評家は「映像は凄いけど、中身はスカスカじゃないか」と罵るかもしれない。しかし映画とは、そもそもリュミエールがグランカフェで上映した「蒸気機関車」に端を発するものであり、当時、そこに居合わせた観客が驚きのあまりに席から飛び上がったとされる逸話からも、いま僕らがエメリッヒの『2012』をやはり「すげえな」と呟きながら見つめてしまう生態には、遺伝子上の符号性を感じずにいられない。

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これはいわばお祭りである。万博である。映像見本市。あるいは技術報告会とも言えるのかも。もはやマヤ文明による「2012年、地球滅亡」という予言すらもあまり関係ない(予言のことにはほとんど触れられない)。ただ地が割れ、溶岩が噴出し、街が、いや世界が壊滅し、海水が津波となって山脈を襲う。ストーリーが多少おざなりになっても気にしない。「ンな、ばかな!」という観客の必死のツッコミさえ、ここでは大地のゴゴゴ…を増幅させる音響効果として、たやすく映画の内部へと吸収されてしまう。

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だからこそ『2012』を、ディズニーの『ファンタジア』のごとく、音と映像のハーモニーとして受け止めることを提案したい。

そしてクライマックスにも増して緻密に描きこまれた前半部のハイライト、ロサンゼルスの大地震&脱出シーンを讃えよう。

スローモーションで崩壊していく高層ビルやハイウェイの間隙をすり抜けて、ジョン・キューザック演じる主人公らを乗せた車が、そして小型セスナがきりもみしながらなんとかサバイブを遂げていく。その窓からは、地表が隆起し、重力に重心を奪われた車両や人間が雪崩のように奈落の底へと呑み込まれていく光景がうかがえる。

複数のVFX工房が参加した本作ではシーンごとに多少クオリティの差があるものの、デジタル・ドメイン社担当のこのシーンに限ってはまるで絵画のような特殊効果が冴える。ダイナミックなVFX映像と、瓦礫の砂塵さえも見せつける映像の鮮明さが相俟って、まさにマクロとミクロが一気に眼前に押し寄せたかのような視覚情報の洪水。息継ぎにさえ苦慮するほどの映像世界に圧倒されながら、ようやく僕らの頭に思い浮かぶのは、「美しい…」の一言ではないだろうか。

2012-04.jpg最後に断わっておくが、『2012』を観て「地球が崩壊したらどうしよう…」と不安に駆られる心配はまず無い。本当に観客の恐怖心を刺激したいのならばそれは”ホラー”になるし、それはスペクタクル映画の本来の役割ではない。この映画の人間たちは、結局のところ、どんな状況に見舞われても生きる気満々なのだ。

そして当のエメリッヒだって、この映画とともに滅亡しようという気はさらさら無い。それどころか、この先『2012』で培った経験値を反映・増幅させ、さらなる未曾有の脅威をクリエイトしていこうと、秘かに誓いを立てていることだろう。

「2012」
これは、映画か
http://www.sonypictures.jp/movies/2012/
11月21日(土)より、丸の内ルーブル他全国ロードショー

【映画ライター】牛津厚信

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2009年11月27日 by p-movie.com

マイケル・ジャクソン THIS IS IT

マイケル・ジャクソンは死んでいない。少なくともこの映画の中では彼の死について言及されず、再起に意欲を見せる”キング・オブ・ポップス”が永遠の若さを手にしたままフィルムに焼きついている・・・

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とまあ、前口上を垂れたところで、私もこの10年間、マスコミによって垂れ流されてきたマイケルに関する都市伝説にも似たゴシップを面白おかしく眺めてきた輩である。

是枝作品『歩いても歩いても』で主人公はこう言う。「ほら、人生はいつも、少しだけ間に合わない」。”THIS IS IT”に触れた多くの観客もまず懺悔から始めると思うのだ。間に合わなかった何かを少しだけ心の中で埋め合わせながら。

そしてマイケルはそれを許すとも、許さないとも言わぬまま、ただスクリーンで「怒ってるんじゃないよ。L・O・V・Eだよ」とだけ答えるのだ。

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あるいは、暗闇から幕を開けるこのドキュメンタリーが、オランダから来たという若者に第一声を託したのにも、なんだか胸の中が熱くなる感慨があった。マイケルと父子ほど年齢の離れたオーディション参加者たちが、いかに自分がマイケルに影響されて人生を歩んできたかを吐露するのだ。
みんな目がキラキラしている。今や僕らはこの輝きを指さして嘲笑したりできようものか。みんないつだってマイケルのことが大好きだったのだ。あなたも私も、小中学生のときにあれほど学校で「ポウ!」と叫んでいたではないか。

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再起不能とも言われていたマイケルが、ステージ上を華麗にムーンウォークで移動している。たった一小節の中に組み込まれる繊細なダンス、「ンーダッ!」という唸り声、空を舞うような高音、そして両手を広げてどこかへ飛翔するかのようなポージング。

カリスマとして君臨してきた彼が、スタッフたちと打ち合わせる姿も興味深い。感覚的、詩的な表現で指示を出すマイケルに対して、スタッフは彼に敬意を表しつつ、丁寧に食い下がって確認を重ねていく。こういうシーンを目にすることで僕らはなんだかとても安心する。人間というものは、誰かを介して見つめられたときにこそ、最もその”人となり”が明らかになるものだから。

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ここには不安神経症の王子様など存在しない。人と人の間で創造性を発露しつづけるアーティストがいるだけだ。また、そのリハーサルの神々しさに触れたダンサー、ミュージシャン、セッティング・スタッフが、我々の代わりに歓喜し、手をウェイブさせ、盛り上がる姿があるだけだ。マイケルも彼らに感謝の言葉を表明する。

「みんなよくやってる。理解と忍耐をもって前に進もう。世界に愛を取り戻そう」

彼の言う「愛」はついに商業的な愛に染まることはなかった。かといって具体的な愛というわけでもなく、それはあたかも初めて愛を覚えた少年が、その感慨を「そのまま」の純真さで生涯あたため続けてきたかのようだった。

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同じく「みんな変わろう」と呼びかける彼は、ちっとも具体的ではなかった。

しかし今になって初めてわかるのだ。

彼は具体例を示す代わりに、歌い、踊ることを選んできた人間だったのだと。

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』
公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/michaeljacksonthisisit/
2009.10.28(水)全世界同時公開

【映画ライター】牛津厚信

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2009年11月6日 by p-movie.com

G.I.ジョー

この戦い、かなり刺激的。

40年以上に渡って全米で人気を誇るフィギュアシリーズをベースにしたアクション大作。
監督は「ハムナプトラ」シリーズのスティーブン・ソマーズ。
秘密兵器満載で、爽快感溢れるスピーディーなアクションが見どころ。

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NATO軍の精鋭部隊を率いるデューク(チャニング・テイタム)とリップコード(マーロン・ウェイアンズ)は、新兵器ナノマイト運搬中に謎の組織”コブラ”の襲撃を受ける。
秘密部隊”G.I.ジョー”の援軍により、ナノマイト強奪は阻止したものの、部隊は全滅。
指揮官ホーク(デニス・クエイド)は、生き残ったデュークとリップコードを”G.I.ジョー”のメンバーに迎える。

彼らの前に立ち塞がるのは”コブラ”の強敵ストームシャドー(イ・ビョンホン)とバロネス(シエナ・ミラー)。だが、バロネスはかつてデュークの恋人だった…。

スパイダーマンやバットマンなど、アメコミヒーローにもメッセージ性が求められ、ジェームズ・ボンドがシリアスな方向へ舵を切る昨今。
時流に逆らうように、頭を空っぽにして楽しめる直球のアクションエンターテイメントが登場した。

息つく間もなく畳み掛ける秘密兵器とアクションのつるべ打ちがとにかく圧巻。
スーパーパワーを発揮する加速スーツに、ミサイル飛び交うカーアクション、地底を進むドリル戦車などが続々登場。

敵味方入り乱れての新兵器争奪戦に悪の秘密基地という設定も元々、アクション映画の得意分野。
だが近年はこういう荒唐無稽さが影を潜め、ハイテクビルやコンピュータネットワークの悪用といった、
より現実的な設定が好まれてきた。

それは映画にリアリティをもたらす反面、自由なイマジネーションを阻害し、アクション映画なのにどこか重苦しいというジレンマを生んでいたのも事実。
だが、基本に立ち返った本作は、この重苦しさから解放。
かつてのジェームズ・ボンドを彷彿とさせる爽快な映画に仕上がった。

さらに、多彩な顔ぶれの出演者にも注目。
アジアの大スター、イ・ビョンホンが本作でハリウッド・デビュー。
派手なチャンバラアクションに加え、ファンサービスとして、肉体美もしっかり披露してくれる。
さらに、ジョニー・デップ主演作「パブリック・エネミーズ」(12月日本公開予定)にも出演のチャニング・テイタム、「スター・トレック」のレイチェル・ニコルズなど注目の若手に加え、「バンテージ・ポイント」のベテラン俳優デニス・クエイドまで幅広くキャスティング。

覆面の戦士スネークアイズに扮するのは、「スターウォーズ エピソードⅠ」で悪役ダース・モールを演じたレイ・パーク。
美男美女から渋いオヤジまで、よりどりみどりで楽しめる。

キャラクターの個性が薄いのがやや惜しいところだが、敵味方の因縁話を盛り込むなど、人物を描こうという意欲の一端は伺える。
この点についてはシリーズ化もありえるだけに、次回以降に期待したいところだ。

と、理屈っぽい話はさておき。
ひとまずは頭を空っぽにして、最新VFXの生み出す爽快なアクションを心ゆくまで楽しんでほしい。

 

『G.I.ジョー』
8月7日(金)日米同時公開
公式サイト:http://www.gi-j.jp/
(C) 2009 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

【映画ライター】イノウエケンイチ

 

 

 

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2009年8月5日 by p-movie.com

トランスフォーマー/リベンジ

新たなるトランスフォーム<変身>は”リベンジ”から始まる!

 製作総指揮スティーブン・スピルバーグ×監督マイケル・ベイの二大ヒットメーカーがタッグを組んだロボットアクションシリーズ第二弾。
全米では既に3億ドルを越える爆発的大ヒットを記録した話題作。

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 サム・ウィトウィッキー(シャイア・ラブーフ)が、正義のトランスフォーマー”オートボット”とともに、悪の”ディセプティコン”を倒してから二年。
恋人ミカエラ(ミーガン・フォックス)と離れて大学に進学した彼は、突然謎の幻覚に襲われる。
一方、宇宙からは新たな敵”ザ・フォールン”に率いられたディセプティコンが再び襲来。
海に眠る総帥メガトロンの復活を狙うディセプティコンとオプティマス・プライム率いるオートボット、そしてサムたちの新たな戦いが始まる。

 変形ロボットが活躍するこのシリーズを、「アルマゲドン」のマイケル・ベイが手掛けるのは妥当としても、奥行きのあるドラマを得意とするスピルバーグらしくないのでは…。
当初、そんな違和感を持っていた。
だが、考えてみるとこんなにスピルバーグらしさ満載の作品はない。

 まず、地球人である主人公サムと、宇宙から来た機械生命体”トランスフォーマー”の出会いは、「未知との遭遇」や「E.T.」など、スピルバーグの代表作にも通じる”異星人とのコンタクト”。
(”ロボット”と呼んでいるが、トランスフォーマーは生命体。)

悪のトランスフォーマー”ディセプティコン”の存在は、デビュー作「激突!」以来、「ジュラシック・パーク」、「マイノリティ・レポート」やプロデュース作品「イーグル・アイ」まで連綿と描かれてきた”暴走するテクノロジー”の物語に通じる。
さらに、オートボット対ディセプティコンの”戦争”という構図も「プライベート・ライアン」で戦争映画の歴史を塗り替え、「宇宙戦争」で異星人と人類の戦争を描いたスピルバーグらしい。
そう考えると、本シリーズは”スピルバーグ好みの素材を、マイケル・ベイが料理した作品”と言える。

 第二弾となる本作もその点を受け継いではいるものの、前作にあった”トランスフォーム(=変形)”に重ねたサムの成長物語などの人間ドラマは薄め。
その代わり、よりエンターテイメント性を追求し、登場するトランスフォーマーは前作の13体から40体以上へと大幅増。
物語の舞台も中東&米国内限定の前作から、世界中へと拡大した。

ドラマを重視するスピルバーグ色の強い前作と、派手さが売りのマイケル・ベイタッチの「リベンジ」と表現してもいいかもしれない。
エンターテイメントを優先したことで、物語が犠牲になった感はあるものの、前作を上回る迫力が見るものを圧倒。
それが功を奏してか、前作を凌ぐ勢いの大ヒットとなった。

少し気が早いが、このままいけば第三弾の可能性も十分。
その際にはぜひスピルバーグ自身の監督で、
より彼らしい作品を見てみたいと思うのは私だけではないだろう。

 

『トランスフォーマー/リベンジ』
6月20日(土)全国超拡大ロードショー
公式サイト:http://www.tf-revenge.jp/
Copyright © 2008 by Paramount Pictures. All rights reserved.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年7月22日 by p-movie.com

愛を読むひと

わずか1ページで 終わった恋が、 永遠の長編になる
まだ高校生の頃、大人の男性に恋をしたことがある。誰もが10代に一度は経験のある年上への憧れからかもしれない。
大ベストセラーになったドイツのベルンハルト・シュリンク作「朗読者」の始まりはまさに少年から青年へと変わる時期の大人の女性への恋を描いた作品である。
ただ、その時代背景、恋に落ちた相手との重大な秘密を守るべく生きた二人の静かな愛は運命としか思えないほど衝撃的なストーリーに仕上がっている。

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1958 年、まだ傷が深い大戦後のドイツ。戦争が終わっても人々の心が癒えるには早すぎる時、15歳のマイケルは年上の女性ハンナと出会い、激しい恋におちる。

 15歳という若さゆえの夢中になる恋をしているマイケルは常にハンナを想い続ける。
ただ部屋で会い身体を求め合うだけの恋愛と共にマイケルはハンナへ本の朗読をするようになる。
その声を静かにうっとりと聴いているハンナには心地よい時間が過ぎているかのよう。だがひと夏の恋は突如としてハンナが姿を消したことで終わりを告げてしまう。

そして8年後、法学生になったマイケルが傍聴した裁判で見たのは、戦時中の罪に問われる被告人としてのハンナだった。
いわゆる戦犯という重い罪を彼女は不当な証言を受け入れ、無期懲役として刑を受け入れるのだ。
8年前に愛したハンナの忌まわしい過去を知ると同時に、自分だけが知る彼女の”秘密”に何も手出しは出来ないマイケルの苦しみは続く。

 ハンナが誰にも知られたくなかった秘密をマイケルは20年間、口を閉ざしながらも消えない愛を想い続けている。
その想いを大人になったマイケル(レイフ・ファインズ)が新たなる行動を起こすことで二人の中で守られてきた愛が温かくも切ない。

 本作で36歳から30年間を一人で演じきったケイト・ウィンスレットのアカデミー賞最優秀主演女優賞受賞に誰もがうなずくだろう。
ケイト・ウィンスレットという女優は常に演じる役と本気で向き合い自分のモノにする気迫が観客をとりこにしてしまうから素晴らしいとしか言いようがないのだ。

女性の私が言うと真実味が増すだろうが、ホントの女性の30代、40代の心と身体はケイト・ウィンスレットの役作り以上にリアルさが感動を深くしているに違いない。

 

『愛を読むひと』
6月19日(金) TOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国ロードショー
公式サイト:http://www.aiyomu.com/
(C)2008 TWCGF Film Services II, LLC. All rights reserved.

 

【映画ライター】佐藤まゆみ

 

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2009年7月9日 by p-movie.com