114分間、あなたは最前線へ送り込まれる。
“ジェイソン・ボーン”シリーズの最強タッグ、再び。本作はシリーズの続編ではないものの、そこで培った手法や息遣いを更に進化させた戦争アクションであり、アメリカ主導で突入したイラク戦争が「大量破壊兵器はなかった」という結論に至るまでの”ありえたかもしれない”物語でもある。
実は本作、全米公開時に不発だった。製作費1億ドルの大作なのにもかかわらず、米国内だけでカバーできた興収が3500万ドル。世界興収も累計8000万ドル未満にとどまっている。
この結果に関係者は大いに落胆した。作品が当たらなかったから、というよりも、批評家やメディアに高評価だったにも関わらず、肝心の観客が振り向いてくれなかったからだ。
ここにはまず「イラク戦争モノはヒットしない」とするジンクスがそのまま反映され、なおかつ全米公開のタイミングがオスカー受賞作『ハート・ロッカー』が旋風を巻き起こしている真っ只中だったこともあり、消費者にとって「第2の戦争モノ」など眼中にも入らなかった可能性が伺える。
作品の高評価は時流やジンクスを越えられなかった。だが製作者らにとってもこれが厳しい戦いとなることは初めから分かっていたはず。それでもなお切り込まざるを得なかったのは、そのキャリアをジャーナリストとしてスタートさせ、世界の紛争地域を取材してきたポール・グリーングラスの条件反射とも言える決断にあったのだろう。つまり、この戦争を描かずして、彼は前に進めなかったのだ。
彼の語り口は事件と観客の壁を取り払い、観客をこれまでにない臨場感の渦中へ突き落とす。ドキュメンタリー・タッチの社会派サスペンス『ブラディ・サンデー』『ユナイテッド93』、それにアクション映画に革命を起こした『ボーン・スプレマシー』&『ボーン・アルティメイタム』。どちらも臨場感は群を抜き、たとえ作りものであろうとも、そこに表出する真実の空気を活写しようとする執念が感じられる。
そして『グリーン・ゾーン』もこれまでのフィルモグラフィーを総決算にふさわしい迫真の映像になり得ている。追われる側から追う側へ。細かな糸口から真相に近づこうとするマット・デイモンの姿にも、この戦争を内部の側から問い直そうとする気概を感じる。またタイトルの”グリーン・ゾーン”が戦闘下における安全地帯を意味することから、陥落後のバグダットがアメリカ軍によってどのように扱われていたかについてもニュース映像以上に興味深い視覚体験を提供してくれる。
ただし、『ユナイテッド93』や『ハートロッカー』の撮影監督バリー・アクロイドのハンディカム映像は迫真の臨場感をもたらす一方、クライマックスのチェイスでかなり手ブレが激しくなる。うっかり船酔いに陥らぬよう、充分に睡眠を取ってから映画に参戦されることをお勧めしておく。
「グリーン・ゾーン」
2010年 フランス/アメリカ/スペイン/イギリス
カラー
1時間54分
【スタッフ】
監督・製作: ポール・グリーングラス
製作: ティム・ビーヴァン / エリック・フェルナー / ロイド・レヴィン
製作総指揮: デブラ・ヘイワード / ライザ・チェイシン
原案: ラジーフ・チャンドラセカラン
脚本: ブライアン・ヘルゲランド
撮影: バリー・アクロイド
音楽: ジョン・パウエル
【キャスト(声)】
マット・デイモン
グレッグ・キニア
ブレンダン・グリーソン
エイミー・ライアン
ジェ イソン・アイザックス
他
配給:
東宝東和
(C) 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
http://green-zone.jp/
5月14日(金)TOHOシネマズ スカラ座ほかロードショー
【映画ライター】牛津厚信