1408号室

ミステリー作家の巨匠スティーヴン・キング原作小説を映画化した本作。
アメリカでは一家に一冊は必ず彼の小説があるというからファン層が幅広いわけだ。
それ以上に映画化、しかも実写化となれば賛否両論ともなるかもしれない。

081201_1408_main.jpgオカルトスポットの噂から真実を検証し、自ら体験しノンフィクションとして本を
出版するライターのマイク・エンズリン(ジョン・キューザック)。
彼の場合、自分の目で見たものしか信じないので”怖い”とかゴーストなどの
概念が一切ないので平気で取材に行けてしまうわけだ。

そんな彼に一通の葉書が届く。「ドルフィンホテルの1408号室には入るな」という
怪しげな言葉が書かれている。そんな謎の言葉を知ってしまったら
突撃レポーターのような彼の好奇心が黙ってるはずはない。
だが、いくら予約電話を入れても予約を取り次いでもらえない。
ええ~~い、現地へ乗り込んでやる!くらい彼の行動力は早い。
だが、やっぱり、ドルフィンホテルのフロントではどんなに粘っても
1408号室には泊めてもらない。
そこで支配人オリン(サミュエル・L・ジャクソン)に直談判するのだが、
オリン曰く1408号室の恐ろしい事実を突きつける。
その部屋に泊まった者だけでなく10分間だけ部屋に入ったメイドまでもが
自殺、自然死を遂げているのである。
オリンの執拗なまでの説得にも応じないマイクは泊まることを決意するのだった…。

人間の心理から言えば、オリン支配人の説得は逆効果でしかないし、
事実を突きつけることでますます真意が見えてこない。
更に、顔が怖いせいで不信感を増す。
結局どんな押し問答があるにせよ、オカルトスポットを追求してるライターの
プライドと意地に勝てる者はいないだろう。
観てる側にとっては、ありきたりな普通のホテルの一室で何が出てるくるのか
解からない間が一番恐ろしい時間帯でもある。
その時間帯こそがマイクの心からあふれ出てくる不安定な心と、気配のない空間。
それは人間と何かとの心理戦以外の何物でもない。
彼は、他の人間同様に自殺及び自然死してしまうのか、恐怖だけが部屋中から
積もり続けるのである。

ちなみに1408=1+4+0+8=13という不吉な数字が部屋を支配してるのは
間違いない。

映画「1408号室」オフィシャルサイト
http://room1408.jp/
心が壊れる。
11月22日 渋谷東急他 全国拡大ロードショー
(C)2007 The Weinstein Company, LLC. All rights reserved.

【映画ライター】佐藤まゆみ

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2008年12月1日 by p-movie.com

ブーリン家の姉妹

個人的にケイト・ブランシェットが演じていた「エリザベス(1998)」が大好きだった
私にとって、イングランド王国でエリザベス女王が誕生した背景を知りたかった。
黄金期を築くエリザベス一世がまだ生まれる以前の16世紀のイングランドを舞台にした
「ブーリン家の姉妹」。

081026_boleyn.jpg.jpg20年に渡る夫婦生活で王女メアリーしか、もうけることの出来なかった
ヘンリー8世(エリック・バナ)は、ただひたすら立派な男子の世継ぎをもうけることにしか
関心がなかった。
そんな状況を知る貴族トーマス・ブーリンが企てたのは自分の娘アン
(ナタリー・ポートマン)とメアリー(スカーレット・ヨハンソン)をヘンリー王の愛人として
宮廷へあがらせる。ブーリン家一族の富と名声を得るためには、娘二人のどちらかが
ヘンリー王の寵愛を受け、男子をもうけさせること。
この企みに気の乗らない妹メアリーはヘンリー王に寵愛され無事に出産。
だが姉アン・ブーリンは権力と富を得るためにヘンリー王へ近づく。
“男を操り虜にする”術をアンは知っていた。その知識と美貌でヘンリー王の心を掴み、
王妃になることを企てるのである。

そう考えると、このヘンリー8世の女好き(!)というのは、もうカトリックとか
プロテスタントの粋を超えて、どうなってるんだか…の一言に尽きる。
のちにアン・ブーリンの産んだ娘がエリザベス 1世として女王として君臨することは
周知の事実だが、その影に隠れていたブーリン家の両親や伯父の策略、
そして次女のメアリー・ブーリンがどのように生きたのかを知る素晴らしい作品である。

ただ共通して言えることは、いつの時代も国も権力や富が欲しいが為に女性が
利用されて来たということである。
本当の幸せを見出す為には、改めて自分自身の心に本当に必要なモノを手に入れ
幸せに生きて欲しいと願うばかりである。

映画「ブーリン家の姉妹」公式サイト
http://www.boleyn.jp/
愛は、分けられない。
10月25日(土) シャンテシネ他全国TOHOシネマズ系にてロードショー
(C) 2008 Columbia Pictures Industries, Inc. and Universal City Studios
Productions LLLP and GH Three LLC. All Rights Reserved

【映画ライター】佐藤まゆみ

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2008年10月26日 by p-movie.com

僕らのミライへ逆回転

とにかく今度のミシェル・ゴンドリーは強大なポジティブ・パワーに満ちている。
『僕らのミライへ逆回転』は、ほんの軽い気持ちで始まった悪ふざけが、
いつしか街を飲み込むムーヴメントへと膨れあがっていく、
ちょっと大袈裟かもしれないが、ずばり「映画の神話」とでも言うべき物語だ。

081013_bokuranomirai.jpgここはニューヨークのダウンタウン。
その街角にVHSしか品揃えのない寂れたレンタル屋が佇んでいる。

店長(ダニー・グローヴァー)の言を借りれば
「それでも伝説的なジャズ・ピアニストの生家なんだぜ」。
そんな歴史的建造物(本当か?)も、今や都市計画によって
取り壊しの運命を余儀なくされている。

とにもかくにも、そんなレンタル屋でアクシデントが発生。なんと店長の留守中、
店に入り浸るジェリー(ジャック・ブラック)が持ち込んだ電磁波のせいで
レンタルビデオの映像がぜんぶ消えてしまったのだ!

これじゃ廃業も免れない。崖っぷちの店員マイク(モス・デフ)はジェリーとともに、
貸し出し希望のあったソフトをビデオカメラでリメイクする大作戦に打って出るのだが…。

はたしてリスペクトか冒涜か。リメイクされる名作は『ゴースト・バスターズ』、
『ラッシュアワー2』、『ロボコップ』、『ドライビング・ミス・デイジー』など数知れず。

このリメイク作のチープさがたまらない。学生映画でも実現可能な、
段ボールと廃品とでこしらえた美術セットの山、山、山。
当然、オリジナルとリメイクの間には圧倒的な格差が生まれ、
その狭間は凄まじいまでのイマジネーションで埋め尽くされていく。

それは例えるなら伝言ゲームがその冒頭と結末とで別次元の産物へ変貌するのと
同じ。ここでは奇跡的な「ズレ」が、リメイク作を宝石級の輝きにまで高めているのだ。

しかし、この映画はここからが肝心。

嵐のようなドタバタが過ぎ去ると、彼らはいつしかリメイク作ではなく、
自分たちにしか描けない唯一無二の物語を紡ぎ始める。
彼らの生まれ育った街の物語を---

映画はたかが虚構かもしれない。されど、虚構はときに人間の記憶の中で
巨大なリアルへと変貌する。『僕らのミライへ逆回転』が8割方の悪ふざけを
ひっさげながらも真摯に紡いでゆくのは、「記憶の再現(リメイク)」であり、
同時にこの「リアルの醸成」だ。

それらが途方もないうねりとなって、NYのダウンタウンを温かいコミュニティ愛で
包み込んでいく。そして気がつくと、ジェリー&マイクはその中心に立って、
まさか自分たちがムーブメントの震源とは知らずに回りをキョロキョロと見回している。
その姿にどうしようもなく胸が震えてしまう。

これはまさに、音楽ドキュメンタリー『ブロック・パーティ』の映画バージョン。
あるいはゴンドリー版の『ニュー・シネマ・パラダイス』といっても過言ではない。

※ちなみに原題の”BE KIND REWIND”は「返却の際は巻き戻してください」という
レンタル屋お決まりのフレーズです。

映画「僕らのミライへ逆回転」オフィシャルサイト
http://www.gyakukaiten.jp/
はっぴいえんどにリメイク中
10月11日(土)シネマライズ、シャンテシネ、新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C) Newline Productions/Junkyard Productions

【映画ライター】牛津厚信

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2008年10月14日 by p-movie.com

アイアンマン

スパイダーマン、ハルク、X-MENでお馴染みのマーベル・コミック陣営から、1963年生まれの古典ヒーローが遅ればせながらスクリーン・デビュー。主人公トニー・スタークには稀代のお騒がせ俳優ロバート・ダウニーJr.が就任し、無骨なアクション&カッコ良いオヤジっぷりを存分に見せ付ける。原作ファンのみならず映画ファンをもうならせる一大エンターテインメント、いま発進!
 
080926_ironman.jpg巨大軍事産業CEOにして天才発明家のトニー・スターク(ロバート・Jr.)は、新兵器デモンストレーションのために訪れたアフガニスタンで謎の武装勢力に拉致され、命と引き替えに新兵器の製作を強いられる。しかし彼は敵の目を盗んでこしらえた即席のパワード・スーツで、決死の大脱出。部下のもとに奇跡的な生還を果たす。

アフガンでの体験は彼を豹変させた。自分の手がけた戦争兵器が終わりなき戦いを生み出しているジレンマに終止符を打つべく、軍需産業を永久凍結し、自らがヒーローとなって平和を守ることを誓うスターク。パワード・スーツは【マークⅠ】から【マークⅢ】にまで改良され、彼の天才的な頭脳はいま「アイアンマン」として新時代の幕開けを迎えようとしていた・・・。

1億ドルを超えればヒットと見なされる全米興業において3億ドル越えの数字を叩きだし、いまやマーベル・コミック陣営ではスパイダーマンに続くドル箱ヒーローとなったアイアンマン。

その魅力といえば、鉄人28号やロボコンを想わせるハリボテ感たっぷりの【マークⅠ】にはじまり、その後、【マークⅡ】【マークⅢ】と試作を重ねるごとに格段のしなやかさを獲得していく進化の過程にある。

銃弾をはじく鋼の身体。細やかに空圧調整するパーツ。猛スピードで空へ飛び出す瞬間の金属のしなり。この全てに、戦う以前に必要不可欠な”ロボット物のカタルシス”が余すとこなく詰まっている。

そして『ザスーラ』(2005)の子ども心を忘れない演出が印象的だったジョン・ファヴロー監督は、この革新的な映像に伴うVFXはもちろん、ときにはドキュメンタリーを想わせる大胆なカメラワークさえ用いながら、アイアンマンの無骨なアクションに肉薄していく。

また、このすべてを凌駕するダウニーJr.の飄々たる存在感ときたら・・・これはもう、ぜひ劇場で目撃していただきたい。

すでに様々な媒体で伝えられているように、エンドロール明けにはちょっとしたサプライズ・ゲストが待っている。『インクレディブル・ハルク』の最後にトニー・スタークが出演したのと同様、”サプライズな彼”(ハルクじゃないよ!)は今後のマーベル・コミックの映画戦略を占う意味でも重要な布石となることだろう。

今後、ヒーロー物はいよいよコラボレーションの時代に突入。正義の中にも協調、対立、混沌が生まれ、世界はますます複雑化していく。『アイアンマン』だけで驚いてはいけない。これはまだ序章に過ぎないのだ。

映画「アイアンマン」オフィシャルサイト
http://www.sonypictures.jp/movies/ironman/
装着せよ― 強き自分
9月27日(土)より日劇3ほか全国ロードショー
(C) 2008 MVLFFLLC. TM &
(C) 2008 Marvel Entertainment. All Rights Reserved.

【映画ライター】牛津厚信

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2008年9月26日 by p-movie.com

幸せの1ページ

ジョディ・フォスター主演の新境地?とも思わせてしまうほど、ほのぼのとした
ハートウォーミングな物語。
そして都会では考えられない冒険の世界が一人の女性と少女が成長していく様子は
心強くて勇気をもらえるはずだ。

080913_shiawase-no-1p_01.jpgベストセラー冒険作家のアレクサンドラ・ローバー(ジョディ・フォスター)が
執筆しているのは勇気あるヒーロー”アレックス・ローバー”の活躍するアドベンチャー
小説である。現実のアレクサンドラは物語の主人公アレックスとは大きく違い、潔癖症で
外出恐怖症、おまけに極度の引きこもりの女性である。そんな彼女の書く物語を常に
心待ちするファンは多い。その中の一人、11歳のニム(アビゲイル・ブレスリン)は
海洋生物学者の父ジャック(ジェラルド・バトラー)の影響もあり、世界中の海の研究に
勤しみ、たどりついたのは南の孤島での研究生活というワケだ。幼いニムはずっと
父ジャックと孤島で自然の中でサバイバル生活をしている。友達は島に住むアシカたち。
ウミガメの産卵も間近で観る事が出来たり、とまさに自然との共存を楽しむ生活の
毎日を送っている。一方、アレクサンドラは小説の執筆に行き詰っていた。
冒険小説を書いてるのに、実際の冒険など体験もしたことがないせいか、自然の世界の
ことをネットで調べるだけで終わってしまう。それでは困ると考えた末、生物学者の
ジャックへメールを出し、現実の火山について聞いてみることに…。
何度かメールをやりとりしてる内に、ジャックは海へ出たまま戻ってないことに気付く。
今までやりとりしていたメールの相手は11歳の少女だと知り、驚くのである。
さらに孤島で少女が一人で父親を待っていることに不安を覚えたアレクサンドラは
少女のSOSに迷う。家から一歩も出れないアレクサンドラにとって、少女の住む孤島へ
行くべきなのか…と。

ただ、飛行機に乗りたどり着くような場所じゃない、ってことにアドベンチャーが
詰まっている。潔癖症の主人公が一歩、部屋から出るまでもが大きな冒険でもある。
その冒険に勇気を振り絞り踏み出す姿には笑えると同時に人生のすべてを
包んでいるかのようで心強い第一歩に思えて仕方がない。
今までのジョディ・フォスターの出演作品を思うと、本作は彼女自身にとっての挑戦、
冒険だったのではないだろうか。シリアスな一面ばかりを求められてきた
ジョディ・フォスターの新たな女性像を見せてくれたことに驚きを隠せない。
今後も、ジョディ・フォスターならではの素晴らしい笑顔いっぱいの作品が観たくなること
間違いなしである。

余談だが、この作品で撮影された孤島は、オーストラリアにある、ヒンチンブルック島で、
現在は国立公園として美しいロケーションの場所である。

映画「幸せの1ページ」オフィシャルサイト
http://shiawase1.jp/
人生なんて、たった一行で変えられる。
9月6日より丸の内ピカデリー2ほか全国ロードショー
(C)Copyright Walden Media, LLC. All Rights Reserved.

【映画ライター】佐藤まゆみ

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2008年9月13日 by p-movie.com