消えた天使

犯人は人間なのか― ★★★
[原題] The Flock
[07/米] 1h45 8月4日 スバル座ほか全国ロードショー!
[監督] アンドリュー・ラウ
[製作] アンドリュー・ラウ、フィリップ・マルチネス、エリー・サマハ、ジェネット・カーン、アダム・リッチマン
[脚本] クレイグ・ミッチェル、ハンス・バウアー
[撮影] エンリケ・チェディアク
[音楽] ガイ・ファーレイ
[美術] レスター・コーエン
[衣装] デボラ・エヴァートン
[出演] リチャード・ギア、クレア・デインズ、ケイディー・ストリックランド、アヴリル・ラヴィーン、レイ・ワイズ、ラッセル・サムズ、マット・シュルツェ、クリスティーナ・シスコ、ドウェイン・バーンズ、エド・アッカーマン、フレンチ・スチュワート
[配給] ムービーアイ
[宣伝] フリーマン・オフィス

オフィシャルサイト:http://www.kieta.jp/
(C)2006 BMS PICTURE TWO,INC, ALL RIGHTS RESERVED.

 香港出身のアンドリュー・ラウ監督、ハリウッド進出第一作目となる本作。
アンドリュー・ラウ監督作品は日本ではお馴染みの作品が数多く知られている。最近では「インファナル・アフェア」三部作や金城武主演「傷だらけの男たち」など香港映画界では無くてはならない存在である。
そのアンドリュー・ラウ監督がハリウッドで創り上げた作品は、アメリカ全土を脅かす性犯罪を犯した者たちとそれを管理する州の監察官との人間サスペンスである。
 18年間、性犯罪登録者を観察する公共安全局に勤めてきたエロル(リチャード・ギア)は数週間後に退職をする。その後任としてアリスン(クレア・デインズ)がエロルの指導を受けることとなる。
そんな矢先、女子大生の失踪事件が発生。刑事ではないエロルが出来ることは、自分の管轄地域の性犯罪登録者を訪ね、様子を伺いに行くことだけだ。
全ての性犯罪者を見る時のエロルの鋭い視線の先には必ず、その犯罪者の犯した罪を重ねている。一度、性犯罪を犯した者が二度、三度と同じ過ちを繰り返すに違いないと踏んでいるからだ。
もちろん、すべての性犯罪者が再犯するというわけじゃない。ちゃんと更生し平和に社会生活を送っている人間もいる。
だが彼らは出所した後、性犯罪者という烙印を押されインターネット上で全て公開されることになる。
そこで性犯罪者たちも独自に情報収集し同じ登録者と群れるのである。一般社会への公開が性犯罪者にも公開されているというネットの落とし穴。
これが、女子大生失踪事件に大きく関係してくるのは間違いない。果たしてエロルとアリスンの辿りつく驚愕の真実に観客は耐えられるだろうか。
因みにR-15というのも、うなづけるが…あまり気分の良い題材ではないし、恐ろしすぎてたまらない。
アメリカでは2分に一人、性犯罪が起きているというから、とんでもない事態である。こんな事態を抱えたアメリカでの性犯罪者とそれを見張る公共安全局の職員のあまりにも過酷な問題の直視は現実問題として耐え難い。
因みに、この映画で女優デビューした歌手のアヴリル・ラヴィーンは、出演している時間が異様に短い。
謎の女性と描かれてはいるが、皮肉にも本当に謎を抱えている女性と化している。
(佐藤まゆみ)

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2007年8月4日 by p-movie.com

リトル・チルドレン

大人になれない大人達 ★★★★★
[原題] Little Children

[06/米] 2h17 7月28日 Bunkamuraル・シネマ、シャンテ シネ他全国ロードショー!
[監督] トッド・フィールド
[製作] トッド・フィールド、アルバート・バーガー、ロン・イェルザ
[脚本] トッド・フィールド、トム・ペロッタ
[原作] トム・ペロッタ
[撮影] アントニオ・カルヴァッシュ
[音楽] トーマス・ニューマン
[衣装] メリッサ・エコノミー
[美術] デイヴィッド・グロップマン
[出演] ケイト・ウィンスレット、パトリック・ウィルソン、ジェニファー・コネリー、ジャッキー・アール・ヘイリー
 ノア・エメリッヒ、グレッグ・エデルマン、フィリス・サマーヴィル、ジェーン・アダムズ、レイモンド・J・バリー、タイ・シンプキンス、ルーシー・ピアース
[配給] ムービーアイ

オフィシャルサイト:http://www.little-children.net/
(C)MMVI NEW LINE PRODUCTION, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 今年のアカデミー賞で主演女優賞をノミネートされたケイト・ウィンスレット。
惜しくも受賞は逃したが三部門でのノミネートとなり、たくさんの映画賞でもノミネートされた話題作である。

 アメリカ・ボストン郊外に引っ越してきた主婦サラ(ケイト・ウィンスレット)は三歳の娘と公園デビューも果たし、ご近所に住む主婦たちのたわいも無い会話に孤独感を覚える。
幼い子供連れの主婦たちは家庭での愚痴、変化の無い毎日を公園でお喋りをしながら送る。
そんな輪の中に溶け込めないサラは、主婦の一定の価値観に違和感を覚えながらも適当にあしらう。
郊外に住む主婦たちは、こんなものなんだろうかとも諦めにも似た距離感を知る。
そんなある日、昼間の公園に若い父親が幼い息子を公園に連れてやって来る。
主婦たちの視線はそこへ集まるが、近づこうとはしない。適当な妄想で現実を紛らわすには、それが一番正しいらしい。
だが、サラは気兼ねなく若い父親ブラッド(パトリック・ウィルソン)に話しかける。
幸い、サラの娘ルーシーとブラッドの息子アーロンも仲良くなり、自然と親同士が良き友人として話をする機会が増えるのである。
プールでサラは娘を連れ、ブラッドも息子を連れて泳ぎに来る。そんな昼間の友人関係が夏の間、続く。
この出会いがサラとブラッドには未来への変化となるのである。
そんな中、公然わいせつ罪で2年服役した男ロニーが仮釈放されたことで平和な街は騒然とする。
ロニーがどんな男で母親はどんな人間なのか…そしてサラとブラッドの一線を画していた矢先に互いの家庭問題が浮き彫りとなる…。
 誰もが日常のありきたりの自分に変化を欲している。そしてその平凡な日常を自ら疑問と感じ、幸せ探しに乗じてしまう問題に自分を重ねていく。
たとえば、ケイト・ウィンスレット演じる主婦サラは、仕事が忙しい夫の秘密を知り、愕然とする。
一方、主夫ブラッドは司法試験に三度目の挑戦を控えながら妻からの期待をプレッシャーとして感じ、子育てに追われる日々。
主夫という観点から全てを妻の管理下に置かれてしまう状況になっている。大人になった大人たちが本当に欲しかったのは、何だったのだろう?
 現実から眼を背け、問題を問題として向き合わずにいる大人になれない大人たちの姿は子供達にどのように映るのだろう。
何気ない普段の毎日に幸せを追い求める大人達の満たされない心にふと疑問をぶつけたくなるような作品である。(佐藤まゆみ)

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カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2007年7月28日 by p-movie.com

私たちの幸せな時間

生きたいとはじめて思えた瞬間 ★★★★
[原題] Maundy Thursday

[06/韓] 2h4 7月14日 シネカノン有楽町、渋谷シネ・アミューズほかにて全国ロードショー!
[監督] ソン・ヘソン
[製作] キム・サングン
[脚本] ジャン・ミンソク
[撮影] カン・スンギ
[音楽] イ・ジェジン
[原作] コン・ジョン(蓮池薫訳・新潮社刊)
[出演] カン・ドンウォン、イ・ナヨン、ユン・ヨジョン、カン・シンイル、ジョン・ヨンスク
[配給] デスペラード
[宣伝] デスペラード

オフィシャルサイト:http://www.shiawasenajikan.jp/
(C)2006 Bear entertainment co.,Itd.(C)Prime entertainment co.,Itd.All rights reserved.

 死刑囚と心に深い傷を持つ女性のひと時を描いた韓国映画「私たちの幸せな時間」。

 人を殺したユンス(カン・ドンウォン)は死刑囚。生きる希望も無ければ明日さえ来るか解からない。
一方、過去に対して深い傷を持ち自殺願望の女性、元歌手のユジョン(イ・ナヨン)。
出会うはずの無かった二人は、ユジョンの三度目の自殺未遂により、叔母に刑務所へ連れて来られたことで始まる。
殺人という罪を背負い死刑囚として生きるユンスは、神父様にもシスターにも心を開かず、ただ死刑だけを待つ日々を送る。
ユジョンは、裕福な家庭で育ちながらも仕事に力も入らず、死にたいという気持ちだけが毎日を支配する。
こんな二人の出会いはトゲトゲしく、相手のことを思わぬ言葉で互いに傷つけあう。世界中を憎悪で見つめる死刑囚ユンスの目の前に現われたユジョンですら、朝が来ると苛つき自分を絶望の淵へと突き落とす。
そんな二人が毎週、木曜日に面会する中で次第に明らかになる過去と経緯。
その過程で幾度となく愕然とする真実にぶつかる。生きていく過程の中で歳だけが増え、背負った傷は決して癒える事が無く過ごしてきたふたり。
“明日かもしれない”死刑執行を抱えながらも、ユジョンに心の内を話すユンスは「生きたい」と願う。
過去の傷を話し、ずっと毎週木曜日にユンスと話がしたいと生きる希望を見出すユジョン。だが時は迫っていた…。
 現実的な話では無いかも知れない。こうであったら、いいのに… と思いたくもなるストーリーだが、
気持ちだけはしっかりと受け止め、生きる意味を問わせてくれる。
罪を背負った人間と、傷を抱えた人間の交差点は交じり合うことなど容易じゃない。
だが心の中で、本心のどこかで二人の言葉に共感し一緒に考えたいと思うに違いない。
人間の本質を根本から悩ませてくれる作品である。
(佐藤まゆみ)

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カテゴリー: アジア | 映画レビュー

2007年7月14日 by p-movie.com

絶対の愛

愛が辿りつく時間 ★★★★
[原題] Time
[06/韓・日] 1h38 3月10日 渋谷・ユーロスペースにてロードショー!
[監督] キム・ギドク
[製作] キム・ギドク
[脚本] キム・ギドク
[撮影] ソン・ジョンム
[音楽] ノ・ヒョンウ
[美術] チェ・グヌ
[衣装] イ・ダヨン
[出演] ソン・ヒョナ、ハ・ジョンウ、パク・チヨン、キム・ソンミン、キム・ジヒュン、キム・ボナ
[配給] ハピネット
[宣伝] ムヴィオラ

オフィシャルサイト:http://zettai-love.com/
(C)2006 KIM Ki-duk Film. All rights reserved.

 鬼才キム・ギドク監督最新作。韓国では去年の夏に公開されたが、公開直前にキム・ギドク監督は“韓国映画界引退”表明をしている。
だが彼が本作公開後も新たな作品を手がけている事を知り安心したのは私だけでは無いだろう。
今回も相変わらず、グサグサと痛みを突き刺してくれるから何とも言いがたい刺激である。

 互いに愛し合い二年の月日が経ったカップル、セヒ(パク・チヨン)とジウ(ハ・ジョンヌ)。だがセヒには常に不安が付きまとっていた。
彼氏ジウが自分に飽きて来たのではないかと嫉妬してばかりなのだ。ジウが少しでも別の女性を見ているだけで怒りをぶつけてしまうセヒ。
時間が経てば経つほどジウが自分の顔、身体に飽きてくると疑って仕方の無いセヒだった。そんなセヒは突如ジウの前から姿を消す。
住まいも携帯も変えて音信不通になる。セヒは今後のジウとのことを悩んだ挙句、整形という手段に踏み切る。
姿を消したセヒを捜しまくるジウ。悪友たちから合コンに誘われても常にセヒのことが忘れられないでいた。
半年後、セヒと通った喫茶店で魅力的なウエイトレスと出会う。彼女の名前はセヒの名前と似ているスェヒ(ソン・ヒョナ)だった。
ジウは次第にスェヒに惹かれていく…。

 彼が自分に飽きていると感じてしまった女性が、彼の愛を出会った頃の新鮮な時間に戻す為、整形し別人となって姿を現す。
その整形した別人の女性が元彼女だとは知らずに彼は愛し始める。だが彼自身は元彼女セヒを忘れられずにいる。
この事実を目の当たりにしている彼女セヒの思いは、整形した女性が自分だとは言い出せずに苦しむ。
彼はセヒを今でも愛してるし、整形し別人の女性も好きだと感じる。もちろん彼の愛を手に入れたことは間違いなくとも、真実を話せずにいるセヒの心は押し潰されそうになる。女性として観ているだけで切なく、狂おしいまでの彼に対する愛情で気が変になりそうだ。
この真実を知ることになる彼ジウはショックで言葉にならない。

だが、ジウが考え抜いた驚愕の行動は誰にも予測できない結末を迎え、衝撃的だ。女性として、男性としてどう受け容れれば良いのか解からず苦しい想いが後を曳く。
(佐藤まゆみ)

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カテゴリー: アジア | 映画レビュー

2007年3月10日 by p-movie.com

今宵、フィッツジェラルド劇場で

最後のラジオショウとともに新しい扉へ ★★★
[原題] A Prairie Home Companion
[06/米] 1h45 3月3日 銀座テアトルシネマ、Bunkamuraル・シネマほかにて全国ロードショー!
[監督] ロバート・アルトマン
[製作] ロバート・アルトマン、デヴィッド・レヴィ、トニー・ジャッジ、ジョシュア・アストラカン、レン・アーサー
[脚本] ギャリソン・キーラー
[撮影] エド・ラックマン
[音楽] リチャード・ドヴォスキー
[美術] ディナ・ゴールドマン
[衣装] キャサリン・マリー・トーマス
[監督代行] P・T・アンダーソン
[出演] メリル・ストリープ、リリー・トムリン、リンジー・ローハン、ギャリソン・キーラー、ケヴィン・クライン、ウディ・ハレルソン、ジョン・C・ライリー、トミー・リー・ジョーンズ、ヴァージニア・マドセン
[配給] ムービーアイ
[宣伝] マジックアワー

オフィシャルサイト:http://www.koyoi-movie.com/
(C)2006 POWDERMILK PICTURES,LLC

 2006年11月に死去したロバート・アルトマン監督の遺作となってしまった本作。
アメリカ・アカデミー賞で5度の監督賞にノミネートされながらも受賞は叶わなかった。だが彼の作品の
数々を観ると、必ず多数の人間模様が細かく描かれ、観客もその中の一人になってしまう。その不思議な
感覚に陥るほどの人間性の豊かな作品が本当に最後になるとは信じられない。

 ミネソタ州セントポールのフィッツジェラルド劇場。ここで長年、全米のリスナーに親しまれてきたラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の公開録音が行われようとしている。
番組の台本はなく卑屈な語り口調に定評のある司会のギャリソン・キーラー(本人)をはじめ、カントリーソングをデュエットしている姉妹(メリル・ストリープ&リリー・トムリン)、その娘(リンジー・ローハン)、下品なカウボーイソングを歌う男性デュオ(ウディ・ハレルソン&ジョン・C・ライリー)などが出演している。
ただ、いつもと違うのは、このラジオ番組を放送している局が、テキサスの大企業に買収された為、今夜が最後の放送となる可能性が高い、ということだった。
そんな背景に中で始まるラジオ番組の公開録音。人と人が入り混じり、心も入り混じり、舞台は進行していく…。
 実在したラジオ番組を司会者の本人によって紡がれる進行をアルトマン監督が面白いスパイスを利かせて感動的な人間ドラマに仕上げてくれている。
一癖も二癖もある出演陣の個性がちゃんと解かって面白い仕上がりである。
今晩で終わり、という時間の枠を超えて一つの番組の集大成は素敵なラストによって笑顔に包まれる。この瞬間を終わりにはしたくないという想いが誰の眼にも浮かぶ。色々な人生の区切りというものがあるとしたら、本作のようにNEXTに繋がる生き方を見習いたい。
そして数々の作品で幸せを感じさせてくれたロバート・アルトマン監督に改めて感謝し、自身にもNEXTに繋がる生き方をしたい。
(佐藤まゆみ)

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カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2007年3月3日 by p-movie.com