007/慰めの報酬

冒頭いきなり、ボンドカー=アストン・マーチンの激しいカーチェイスが展開。
これぞボンド!という見せ場で観客の心を鷲掴みにする。
今回のボンドは、とにかくハードでクールでスピーディー。
なにしろ、前作で愛する女を失った直後の物語だ。
ビーチでのんびり女性を口説いている暇などない。

090125_007_sub01.jpg敵の追跡を振り切り、アジトにたどり着いたボンド(ダニエル・クレイグ)が
引きずり出したのは、前作ラストで狙撃したミスター・ホワイト。
M(ジュディ・デンチ)も登場して取調べを開始しようとしたその時、内部の裏切りが。
ボンドの新たな追跡が始まる。やがて明らかになる謎の組織の存在。
そしてボンドはカミーユ(オルガ・キュリレンコ)という女性、
組織の幹部ドミニク・グリーン(マチュー・アルマリック)に出会う…。

次々と息つく間もなく展開するアクションは前作に劣らず迫力満点な上に、
クルマ、船、飛行機と陸海空を制覇。バラエティも豊かで飽きさせない。
もちろん、ダニエル・クレイグご自慢の肉体を使ったアクションも健在だ。

090125_007_sub02.jpgスピーディーなアクションが思う存分楽しめる作品だが、注目したいのはドラマ部分。
意外なことに、本作の監督マーク・フォースターはアクション畑出身ではない。
傷ついた中年男女の恋愛物語「チョコレート」や、在米アフガニスタン人の帰郷を描いた
「君のためなら千回でも」など、人間ドラマを得意とする実力派。脚本には前作から
引き続き「ミリオンダラー・ベイビー」、「クラッシュ」のポール・ハギスが参加。
アクション大作とは思えない顔ぶれだが、ここに6代目ボンドが目指すものが表れて
いるように思う。それは”人間としてのジェームズ・ボンドを描く”ということではないか。
本作は愛する女性を失ったボンドの復讐劇。
作品全体が復讐に燃えるボンドを表現している。
激しく非情なアクションはボンドの怒りの表れ。
砂漠や荒野を多用した映像は荒んだ心の象徴。
今回のボンドガール、カミーユも復讐を誓った女性であり、復讐の物語を強調する。
ポスターなどにも使用されている2人が並んで荒野を歩くシーンは象徴的だ。

これまでの完全無欠のヒーローではなく、怒りも哀しみも抱え込んだ男。
そんな人間臭さを持つのが6代目ジェームズ・ボンド。テロや環境問題、金融危機など
様々な問題で世の中が閉塞感に覆われる今、求められているのは憧れの
ヒーローよりも、そういった共感できる人物なのかもしれない。

とはいえ、やはりボンド映画。シリーズとしてのお楽しみも随所に盛り込まれている。
Mのプライベートを描いた場面や旧作へのオマージュ、”スペクター”以来となる
謎の敵組織、などなど。こうなるとQやマネーペニーの登場にも期待がかかるが、
それは次回以降にとっておこう。
ひとまずは2年ぶりに登場した6代目ボンドの活躍を存分に楽しみたい。

090125_007_main.jpg映画「007/慰めの報酬」オフィシャルサイト
PC:http://www.007NAGUSAME.jp
MOBILE:http://mm.spe.jp/
傷ついた心が、共鳴する。
2009年1月24日(土)より丸の内ルーブル他全国ロードショー
(C) Quantum of Solace 2008 Danjaq, LLC, United Artists Corporation,
Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年1月25日 by p-movie.com

戦場のレクイエム

1940年代の中国で繰り広げられた”国共内戦”を背景に、最前線で戦った兵士たちの悲劇を通じて戦争の愚かさを描く。監督はチャン・ツィイー主演作「女帝[エンペラー]」のフォン・シャオガン、脚本はチャン・イーモウ作品で知られるリュウ・ホン。撮影は「レッドクリフpart1」などのリュイ・ユエ。中国の一流スタッフが集結した大作である。

090119_requiem_main_01.jpg“国共内戦”に揺れる中国。グー・ズーティ(チャン・ハンユー)率いる共産党の部隊は、「撤退のラッパが鳴るまで、旧炭鉱を死守せよ」との命令を受ける。国民党軍の猛攻にさらされる中、負傷兵から「ラッパが鳴った」との報告を受けるが、真偽は不明だった。やがて、部隊はグーを残して全滅する。戦後、部下たちが英雄として葬られる戦死者ではなく、失踪者扱いされていることを知るグー。これに憤りを覚え、部下たちの遺体捜索を始めるが、その身は戦場での負傷から視力を失いつつあった…。

物語は部隊が過酷な戦闘を経て全滅するまでを描いた前半と、生き残ったグーが部下たちの名誉回復に人生を捧げる後半の二部構成で展開。それが成功し、戦争の悲劇を伝える力作となった。

前半、畳み掛けるように続く戦闘シーンはハリウッド大作にも引けを取らない迫真の映像で、兵士たちが辿った運命の過酷さを伝える。後半は一転、平和な時代に人々が安堵する中、部下たちの悲運を知るグーに絞り込んだドラマが展開。戦場跡で発見した遺品のヘルメットが、人々のトイレとして利用されていたことを知った彼の叫びは悲痛だ。
「兵士が被るものだぞ!」
前半の兵士たちを知る我々は、この言葉に込められたグーの思いを理解できるだろう。
だが、戦場を知らない人々に果たして伝わるのか?
世界中で日々続く紛争や戦争にまで拡大して考えてみよう。
果たして私たちはグーと同じように共感できるだろうか?

090119_requiem_main_02.jpg後半の展開がいささか駆け足になる感はあるものの、前半との対比が効果的で、戦死者たちの悲しみが胸に迫る。自らグー役を熱望したというチャン・ハンユーの演技も素晴らしく、映画初主演ながら中国のアカデミー賞に当たる金鶏百花賞で主演男優賞を受賞。酷寒の雪原で展開する前半に対して、後半は暖色系の風景を取り入れて映像のトーンを変えたことも、ドラマをより印象深いものにしている。

中国の歴史を背景にしているが、劇中では歴史的な背景や政治的なエピソードは一切語られない。あくまでも、戦場を経験した人間の視点というスタンスを貫いている。これによって本作は”中国の歴史”という枠を超えた広がりを獲得。この作品は、一人一人が戦争について様々に思いを巡らせるきっかけとなるに違いない。
 
090119_requiem_main_03.jpg映画「戦場のレクイエム」オフィシャルサイト
http://requiem-movie.jp/
一人生き残り、すべてを背負う―。
2009年1月17日(土)よりシャンテシネほか全国順次ロードショー
(C)2007HuayiBrothersMedia&Co.,Ltd.MediaAsiaFilms(BVI)Ltd.AllRightsReserved.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年1月19日 by p-movie.com

ディザスター・ムービー! おバカは地球を救う

どんな大作映画もパロディ化して大笑いできる「最終絶叫計画」の製作チームが
またもや、おバカなパニック・パロディを発信させてくれた。
ちょうど時期的に不況な世界を目の当たりにしてたら、もう笑うしかない。
この笑えるくらいバカバカしい世界を本作で楽しむ他無い気がしてくる。

090109_disaster-movie_01.jpg今回は、人類の危機というテーマに沿って描かれているのだけど、まったくもって
緊迫感は無い。隕石の落下による危機でさえ、ウィル・スミス主演の「ハンコック」や
「アイアンマン」や瞬間移動できる「ジャンパー」も、緑色に変身する「ハルク」でさえ、
この”危機”には役に立たない。本当の危機が迫っていても、
きっと「セックス・アンド・ザ・シティ」のような強いニューヨーカー達が必要なのかも…。
あまりにも沢山のハリウッド映画のパロディが詰まってて、総てを言い当てられたら
相当な映画好きとも言える。

内容的には、詰め込みすぎとも言えなくもないが、この最初の人類の危機が
どうなってしまうのかは気にしなくても大丈夫そうだ。製作の意図はきっと
原題「ディザスター・ムービー」=ひどい映画、と自虐的な面も含まれてるから
ただ、今は笑って笑ってやり過ごすのが正解!という作品なのだろう。

090109_disaster-movie_02.jpg映画「ディザスター・ムービー! おバカは地球を救う」オフィシャルサイト
http://disaster-movie.jp/
人類最大の危機ですが、何か?
1月10日 新宿ピカデリー、渋谷シネパトス他 全国ロードショー

【映画ライター】佐藤まゆみ

クローンは故郷をめざす

こんな日本映画、見たことない。サンダンスの脚本コンペで絶賛され、
かの巨匠ヴィム・ヴェンダースがプロデューサーとしての参加を熱望した本作。
まさに息をするのも、まばたきすることさえも許されない。
そんな幻想的、かつ世にも美しい近未来SFが、ここに産声を上げた。

090106_clone_main.jpg宇宙飛行士・高原耕平(及川光博)は大気圏外でのミッション中に事故に逢い、
絶命する。こういうとき、最新技術による保険が速やかに発動するらしい。
それがクローン技術だ。しかし新たに蘇った耕平に異常事態が発生。脳裏に
浮かび上がった記憶に突き動かされ、ベッドから忽然と姿を消してしまったのだ。
彼が目指す先はただ一つ。故郷。大自然に囲まれたその懐かしき場所で、
彼が目にしたものとは・・・。

これが長編デビューとなる中村莞爾監督は、これまで『はがね』『箱-The Box-』という
2本の短編で世界中の映画祭を驚嘆の渦に巻き込んできた伝説のクリエイター
でもある。その映像づくりはいっさいの妥協を許さない。

立ちこめる霧。耳元で微かに響く物音。振動し、共鳴しあう空気。

小栗康平、タルコフスキーを思わせる映像スタイルが時の経過を消滅させ、
時折、濃厚な土の匂いさえ感じさせる。僕らはいまこの瞬間、クローンとともに
自らも故郷を目指し歩いているかのよう。そこで対峙する幼い頃の記憶。
堰き止めていた感情が雪崩のように押し寄せてくる。
はたして「自分」とは何なのか?親子とは?兄弟とは?魂とは?
そして、クローンとはいったい何なのか?

たやすく生命が失われてしまう現代。たやすくリセットの可能となった未来。
そんな時代に向けて本作は「生きろ」とは決して言わない。
しかしクローンがクローンを背負い、過去の自分を肯定しながらとぼとぼと
懸命に郷里をめざす姿を、ただひたすら描き続ける。愚直なまでに描き続ける。

静謐な映像に入り込むVFX。そして美術監督、木村威夫の仕事ぶりも見逃せない。
90歳という高齢を感じさせぬバイタリティで、鈴木清順作品などで築いた伝説を
更に研ぎ澄ませた、まるで彼岸のような、祈りのような世界を築き上げている。

映画「クローンは故郷をめざす」オフィシャルサイト
http://clone-homeland.com/
巨匠が認めた、美しき映像レクイエム
09年1月10日(土)シネカノン有楽町1丁目ほか全国順次公開
(C) 「クローンは故郷をめざす」製作委員会

【映画ライター】牛津厚信

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2009年1月6日 by p-movie.com

バンク・ジョブ

70年代の幕開けと同時に、アイルランド紛争激化という騒然とした世の中を迎えた
ロンドンで英国全土を揺るがす大事件が発生する。実際に起きた事件を映画化し、
王室スキャンダルまでもが世に出てしまうという前代未聞の作品。
実話を基に描かれてるだけに90パーセントが事実(!?)という驚くべき情報を
目の当たりに出来る作品である。

 
081202_bankjob_main.jpgロンドンのベイカー・ストリートにある銀行の地下に強盗団が侵入、貸金庫内の
現金や宝石などを強奪し、行方をくらました。英国全土へ数日間トップニュースとして
報じられた後、突如としてその報道は打ち切られたのである。
その裏に英国政府の秘密が隠されていたのである。

おもしろおかしく描くなら「オーシャンズ11」のようにプロの強盗団の手口を描くほうが
観ていて楽しくて笑えるだろう。だが本作は実話をベースに描かれてる為、
プロの強盗団じゃない。普通の小悪党が7人集まり、地下からトンネルを掘り、
銀行の貸金庫まで到達できて普通に金品を強奪し逃げた…
というだけで終わるハズだったのに盗んだモノの中身が良くなかった。
もともと銀行の貸金庫を狙って金品強奪を誘って来たのは、
中古車屋のテリー(ジェイソン・ステイサム)の昔馴染みの女性マルティーヌ。
悪い話でもないと話に乗って、友人のカメラマンのケヴィンや映画のエキストラを
やっているデイヴや詐欺師のガイ、掘削の専門家バンバスを仲間に入れて
実行することとなる。

前半から、テリー演じるジェイソン・ステイサムの綿密でもない計画と当時の
ありふれたやり方に納得しつつ、そんなに簡単に?!ってほど事は進む。
だが次第にマルティーヌが抱えている裏の真相、そしてそんな裏の政府の手を
知ってしまう強盗団の7人の命に関わってくる問題が次から次へと発生するのである。
どこから片付けたら良いものやら?
とまで色々な”裏”世界から狙われてしまうのが心臓に悪い。
小悪党だけに一発逆転のチャンスには、かなり厳しい状況に巻き込まれてしまう。
そんな状況をリアルに描かれた本作は恐ろしい世界を垣間見てしまったかのようで
国家とは怖い”裏”を抱えてると改めて知ることになるのかもしれない。

映画「バンク・ジョブ」オフィシャルサイト
http://www.bankjob.jp/
奪ったブツは、
キャッシュとダイヤと王室スキャンダル。
11月22日よりシネマライズ ほか全国順次ロードショー
(C)2007 Baker Street Investors, LLC. All Rights Reserved.

【映画ライター】佐藤まゆみ

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2008年12月2日 by p-movie.com