レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦-

構想から18年、総製作費100億円を投じて「M:I-2」のジョン・ウー監督が
壮大なスケールで三国志を映画化した2部作の完結編。
昨年公開され、興収49億円を叩き出す大ヒットとなったpart1に続き、
いよいよ三国志最大の激戦”赤壁の戦い”が幕を開ける。
 
090410_redcliff2_main.jpgpart1で曹操に対して協同作戦で勝利を得た周瑜(トニー・レオン)、
孔明(金城武)率いる孫権・劉備連合軍。
雪辱に燃える曹操(チャン・フォンイー)は2000隻の軍艦を率いて赤壁に陣取る。
だが、水上の戦に不慣れな曹操軍には病気が蔓延、兵士が次々と倒れてゆく。
この逆境を利用して一計を案じる曹操。
その策略は的中し、劉備軍は孔明を残して撤退に追い込まれる。
兵力を割かれた孫権軍は孤立。
圧倒的不利な状況の中、周瑜、孔明らは知力と互いの信頼を持って曹操に立ち向かう。

何といっても見どころはクライマックスの赤壁の戦い。
長江が燃え上がる中、両軍の死力を尽くした戦いの様子が圧倒的な迫力で描かれる。
孔明の知力を物語る名エピソード”10万本の矢”も登場。
冒頭に簡単な説明が付くので、part1を見ていない人でも問題なく楽しめる。
 
090410_redcliff2_sub02.jpg日本人が慣れ親しんできた三国志とは違い、本作では赤壁の戦いを
孔明の独壇場とは捉えていない。
周瑜、孫権、尚香、小喬など登場人物それぞれに活躍の場を与え、
全員が協力することで強大な曹操軍に立ち向かう物語としている。
そこで描かれるテーマは”信頼と友情”。
殺伐とした世の中にジョン・ウー監督が太古の英雄たちの物語を借りて伝えるのは、
人間同士の信頼が未来を切り開く力になるというメッセージだ。

吉川英治の小説や横山光輝の漫画とは展開が大きく異なり、
三国志ファンの中には違和感を覚える人もいるだろう。
だが、吉川版、横山版が存在するのと同様、本作は”ジョン・ウー版三国志”。
元々、数多くの三国志作品の原点”三国志演義”も歴史書を脚色した物語である。
ジョン・ウー流の三国志が存在してもいいはずだ。

そもそも日本人にとって三国志の魅力とは、
“中国を舞台に、数々の武将・豪傑が繰り広げる壮大な歴史ロマン”ではないだろうか。
だとすれば、劉備、関羽、張飛、趙雲ら名だたる武将たちがこぞって活躍する
「レッドクリフ」は、少しもその精神から外れるものではない。
むしろ、三国志を知らない人たちにもその魅力が伝わるように、
“三国志のエッセンスを集約した超大作”と呼ぶ方がふさわしい。

いずれにしても、このスケールで三国志を映像化した前例がないのは事実。
「トロイ」や「グラディエーター」などのヨーロッパ史劇を見る感覚で
ジョン・ウー版三国志を楽しんでほしい。

090410_redcliff2_sub01.jpg映画「レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦-」
オフィシャルサイト:http://redcliff.jp/index.html
赤壁で、激突。 -信じる心が、未来を変える。
2009年4月10日(金)より、TOHOシネマズ 日劇ほか全国超拡大ロードショー
(C) 2009, Three Kingdoms, Limited. All rights reserved.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年4月10日 by p-movie.com

パラレル 愛はすべてを乗り越える―。

交通事故で将来を絶たれた元サッカー選手が、献身的な妻に支えられ、
車椅子バスケットの選手としてパラリンピックに出場するまでを、実話をもとに描く。
北京パラリンピックの日本選手団主将だった京谷和幸氏夫妻がモデル。
ドラマ「RESCUE  特別高度救助隊」の要潤と
歌手として活躍する島谷ひとみの共演で爽やかな感動を呼ぶ。

090306_parallel_main.jpgJリーグで活躍するサッカー選手の京谷和幸(要潤)は、
チアガールの三木陽子(島谷ひとみ)に一目惚れ。
強引なアプローチに陽子は戸惑うが、まっすぐな性格の和幸に魅かれ、
やがて結婚を決める。
だが結婚式前日、和幸が交通事故に。
一命は取り留めたものの、歩くことができなくなってしまう。
自暴自棄になる和幸。
陽子は和幸の母に結婚を解消するよう説得される。
だが陽子の和幸への愛情はその後も変わることなく、2人は結婚する。
やがて、和幸は車椅子バスケのコーチ近藤(細川茂樹)と出会い、
パラリンピックを目指さないかと誘われる。

物語は2部構成で展開する。
和幸と陽子が出会い、愛を育んでいく前半。
そして、事故に遭った和幸が陽子に支えられ、
車椅子バスケの選手として再起するまでの姿を描いた後半。
中でも印象的なのは前半。
ごく普通にデートを重ねていく2人の姿は、
“闘病もの”というよりもラブストーリーそのもの。
大事な一人娘の陽子を奪われるものかと結婚に反対する父親なども登場、
コミカルな雰囲気すら漂わせる。

一見、前半は本筋とは関係ないかのように思える。
だが、事故前の和幸の姿を描くことで、
障害者も健常者と同じ普通の人間だということをわかりやすく伝える。
障害者だって、ときにはわがままも言えば、甘えた面も見せるときもある。
2人が支えあうときもあれば、イライラして八つ当たりすることもある。
表裏両面をきちんと描いたことが、歩けなくなった和幸の辛さや
それを乗り越える夫婦の愛情を、より印象深いものにしている。

また、主演の要潤と島谷ひとみ、2人の好演も忘れてはならない。
障害者という重い題材を扱いながら、
湿っぽくならず、爽やかささえ感じさせるのは2人の功績大。
近年まれに見る爽やかなカップルの姿に、目頭が熱くなった。

中国の故事に「人間万事塞翁が馬」という言葉がある。
一見悪い出来事でも思わぬ幸運をもたらしてくれる、
人生何が幸いするかわからない、という意味だ。
そんなことを思い出させる京谷夫妻の姿は、
タイトル通り”全てを乗り越える”希望に溢れている。
人生に障害者も健常者もないのだ。

映画「パラレル 愛はすべてを乗り越える―。」オフィシャルサイト
http://parallel-movie.com/index.html
どんな時も変わらずに、その人を愛せますか?
2009年3月14日(土)より、シネマート新宿 他 全国順次ロードショー
(C) 2009 『パラレル』フィルムパートナーズ

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年3月13日 by p-movie.com

チェンジリング

1920年代、アメリカで実際に起きた”子供取り違え事件”を、
巨匠クリント・イーストウッドが映画化。
アンジェリーナ・ジョリーが警察の圧力に屈せず、行方不明になった息子を
捜し求める母親を熱演、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。

090306_changeling_main.jpg1928年、ロサンゼルス。
クリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)は1人息子のウォルターを
育てながら電話会社で働くシングルマザー。
ある日、彼女が仕事から帰ると、ウォルターが行方不明に。
5ヵ月後、必死で息子を探す彼女の元に警察からウォルター発見の知らせが。
だが、再会した少年は、息子ではなかった。
その事実を訴えるも、警察の面子を潰されたくないジョーンズ警部
(ジェフリー・ドノヴァン)は、5ヶ月の間に様子が変わっただけだ、と主張。
やむなく自宅に連れ帰るが、少年がウォルターでないことは明らか。
再び警察に訴えるクリスティンだったが…。

息子を取り戻したいと願う母親にとって、あまりにも理不尽な出来事の連続。
頼みにしていたはずの警察からは厄介者扱いされ、挙句は精神病院送り。
それでも権力に負けず、不屈の意志で息子を捜し求めるクリスティン役の
アンジェリーナ・ジョリーが素晴らしい。
実在の人物を演じるためか、帽子を目深に被り、地味目のメイクで
“ハリウッドスター”の印象は控えめ。
唯一目を引くのは、真一文字に結ばれた口元の真っ赤な口紅。
鮮烈な赤い色がクリスティンの決意を象徴する。
内面を的確に表現した装いと、アンジーの名演。
そこに抑制の効いたイーストウッド演出が加わり、クリスティン・コリンズという
人物を見事にスクリーンに再現している。

物語の舞台こそ1920年代だが、背景となる社会状況は奇妙なほど
今の世の中と似通っている。
自分たちに都合のいい論理をゴリ押ししようとする権力の姿。
劇中では語られないが、この頃はアメリカの経済破綻をきっかけに
世界恐慌に陥った時期。
イーストウッドは、製作中に現在の不況を予想していたわけではないだろうが、
その様子はブッシュ政権末期のアメリカと重なる。
そう考えると本作は、行方不明の息子を探す母親の物語というだけでなく、
80年前の事件に託したイーストウッドからのメッセージのようにも思えてくる。

歴史に名を残した人物でもなく、ささやかな幸せを取り戻そうと権力に立ち向かった
ごく平凡な1人の女性、クリスティン・コリンズ。
その姿は80年の時を越え、今を生きる我々に勇気を与えてくれるに違いない。

映画「チェンジリング」オフィシャルサイト
http://changeling.jp/
どれだけ祈れば、あの子は帰ってくるの―。
2009年2月20日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
(C) 2008 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年3月6日 by p-movie.com

余命

自分の生命を蝕むガンと次の世代に命をつなぐ出産。
正反対のこの二つが同時に訪れたとき、女性はどのような決断を下すのだろうか。
そんな女性の姿を通じて、生命の尊さ、美しさを再確認する作品だ。

0902123_yomei_main.jpg外科医として第一線で活躍する百田滴(ももたしずく:松雪泰子)は、
結婚10年目にして待望の赤ちゃんを授かる。
フリーカメラマンの夫、良介(椎名桔平)とともに喜んだのも束の間、
過去に全摘出手術で治療したはずの乳ガンを再発。
新たな命をとるか、自分の命をとるか、滴は大きな決断を迫られる。
そしてそれは、赤ちゃんの誕生を楽しみにする良介に告げることのできない
事実だった…。

「男女7人夏物語」から近作「SCANDAL」まで、テレビドラマを中心に
活躍を続けるベテラン、生野滋朗監督が谷村志穂の小説を映画化。
南国・奄美地方でのロケを実施、癒しを感じさせる優しい映像の中、
残り少ない人生を生き抜く女性の姿を力強く描く。

滴は過去に乳ガンを患っており、全摘出手術を受けている女医、というところが
大きなポイント。よくある”闘病もの”のようにガンと戦う姿をドラマチックに描くのではなく、
自分の余命を知った女性の内面を描いている点が特徴である。
滴にはガンの経験もあり知識もある。
つまり、告知されなくても自分の先行きが見えてしまっているのだ。
命懸けの出産で新たな命を残すか、自分の延命のために治療に臨むか。
松雪泰子の繊細な演技とモノローグが、重い決断に悩み、迷いながらも
生き抜こうとする滴の姿を描き出す。
また、わずかなシーンだが、摘出手術の傷跡や炎症なども
隠さずに映し出すことで、ガンの怖さを明確にし、滴の意志の強さを印象付ける。

一方、子供が生まれることを喜んでいた夫、良介は出産後に滴のガン再発を知る。
だが、彼は事実を伏せていた滴を責めることなく、優しく抱きしめる。
ここに至るまでの妻の悩みや苦しみを思いやって。
果たして世の男性は、自分の愛する人が命を縮めることを承知で
子供を産んだとしたら、良介のように接することができるだろうか。

あなたが女性で、滴の立場だったら、どちらを取るだろうか?
また、男性だったら良介のように愛する人の決断を静かに受け入れられるだろうか?
ぜひ、愛する人と一緒に観て、相手を思いやることの大事さ、
生命の尊さについて考えてほしい。

映画「余命」オフィシャルサイト
http://www.cinemacafe.net/official/yomei-love/index_pc.html
君に届け いのちへの想い
2009年2月7日(土)全国ロードショー
(C)2008「余命」製作委員会

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年2月23日 by p-movie.com

誰も守ってくれない

犯罪の凶悪化と多発化が大きな問題となっている今日。
マスコミに追われる犯罪者の妹と彼女を保護する刑事の姿を通じて、
社会のあり方を問う社会派エンターテイメントである。
監督は大ヒット作「踊る大捜査線」シリーズの脚本家として知られる君塚良一。
硬派な内容でありながら、見る者を釘付けにするメリハリの効いた演出。
強いメッセージ性と弱者に対する思いやりに溢れた力作だ。
モントリオール世界映画祭で最優秀脚本賞を受賞。

090203_daremo_main.jpg船村沙織(志田未来)は東京に住むごく普通の中学生。
ある日、兄が小学生姉妹殺害の容疑者として逮捕されたことで生活は一変。
自宅にはマスコミが押し寄せ、近所からは石が投げ込まれる。
警察からは加害者家族保護を目的に刑事が派遣されてくる。
沙織の担当は勝浦(佐藤浩市)。彼は、崩壊寸前の家族関係を修復するため、
翌日から休暇を取って妻と娘、3人の家族旅行を計画していた。
早々に仕事を終わらせようと、マスコミを振り切って沙織を連れ出す勝浦だったが、
執拗な追跡は続く。心を開かない沙織に苛立ちを覚えながらも、逃避行を続ける勝浦。
実は彼は、過去の失敗から心に大きな傷を抱えていた…。

090203_daremo_sub01.jpg序盤、長男の逮捕から家族を保護するまでの様子を追ったドキュメンタリータッチの
展開に、まず圧倒される。受け入れ難い事実に呆然とする母親。家族の保護のために、
事務的に離婚手続きを進める役人。なす術もなく指示に従うだけの父親。
普段目にすることのない出来事を、その場に居合わせるかのような臨場感で描く。

そして、斬新な物語に説得力を与えているのが、リアルな登場人物の描写。
自分の家庭が崩壊寸前のときに、犯罪者家族を保護しなければならない
ジレンマを抱えた勝浦。息子へのいじめを放置した学校への怒りから、加害者家族を
保護する警察を糾弾する新聞記者など。実在感のある人物描写をベースにすることで、
マスコミが悪い、警察が悪いというような、型にはまった善悪論では片付けられない
厚みを生んでいる。

090203_daremo_sub02.jpgその一方で、これとは正反対の人間も登場する。
多数登場する無名のネット住人たちだ。
マスコミよりも何よりも、勝浦たちを追い詰めるのは彼ら。
掲示板に吊るし上げの書き込みを行い、容赦なくプライベートまで晒してゆく。
だが、その動機は不明な上、個人の顔は最後まで見えない。
(隠れ家まで追ってきた場面でも、表情を一切映さない演出がニクイ。)
モラルの欠如したネット書き込みの恐ろしさと危険性が伝わってくる。

社会の暗い部分を描きながらも、見終わった後に不快感は残らず、
清々しささえ感じる。このあたりは君塚監督の力と沙織を演じた志田未来の
さわやかな魅力によるものだろう。物語としても見事な出来で、扱っている内容も
意義深い。幅広くお勧めしたい作品だ。

映画「誰も守ってくれない」オフィシャルサイト
http://www.dare-mamo.jp/
殺人犯の妹となった少女と彼女を守る
刑事の逃避行が始まる──。
2009年1月24日(土)よりロードショー
(C) 2009 フジテレビジョン 日本映画衛星放送 東宝

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年2月3日 by p-movie.com