誰がため

デンマークの第二次大戦秘話を映画化

daregatame01.jpg 第2次大戦は多くの悲劇を生んだ。それは、敵同士として戦火を交えた者だけではなく、銃後に生きる人々にも過酷な運命を齎した。本作は、占領下のデンマークで、抵抗組織の暗殺者となった二人の男たちの実話を、当時を知る関係者の目撃証言に基づいて映画化した作品で、本国デンマークで2008年度の観客動員1位を記録した硬派の力作である。

 1944年。デンマーク、コペンハーゲン。打倒ナチスを掲げる地下抵抗組織<ホルガ・ダンスケ>に、23歳のベンと・ファウファウアスコウ=ヴィーズ、通称フラメンと、33歳のヨーン・ホーウン・スミズ、通称シトロンという二人の男がいた。彼らの任務は、ゲシュタポやナチに協力している売国奴の暗殺。二人は、組織の上層部から命じられ、次々とターゲットを抹殺していった。
 だが、彼らの直属の上司アクセル・ウィンターから、ドイツ軍情報機関の将校二人の暗殺を命じられてから、事態は一変する。標的のギルバート大佐と対峙したフラメンは、彼との対話から”何かおかしい”と感じ、初めて任務を実行するのを躊躇う。そして、動揺を残したまま、もう一人のサイボルト中佐の暗殺に向かった彼は、相打ちとなり重症を負う。これにより、それまで直接人を殺したことのなかったシトロンが、ギルバート暗殺に赴き、初めて自ら手を下した。
 やがて、ゲシュタポの報復が激化し、組織のメンバーが次々に拘禁・処刑されると、ウィンターは、フラメンの恋人の諜報員ケティを密告者と断定し、彼らに彼女の暗殺を命じた。彼女はウィンターの運び屋であると同時に、ゲシュタポのリーダー、ホフマンとも繋がる二重スパイだというのだ。ケティを問い詰めたフラメンは、恐るべき事実を知らされる。ウィンターの暗殺任務の中には、ナチや裏切り者にまぎれて、ウィンターにとって都合の悪い人間がリストアップされていたと…。自分達は組織に騙され、無実の人間を殺したのか?果たして、ケティは本当に信頼できるのか?自らの正義に疑念を持ち、苦しむ二人に、さらに過酷な運命が待ち構えていた…。

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サスペンスの中に息づく人間のドラマ

daregatame03.jpg 戦争は、人間が人間を殺すという非人道的な行為である。それを止めるべく、戦いに身を投じた人間もまた、自らの手で人間の命を奪う。その果てに待つのは、ボロボロに傷ついた心…。正義の信念の下に、暗殺者の道を選んだ二人が、自らの心の死と闘いながら、ひたすら人間らしく生きようとする姿が、感動を呼ぶ。

 映画は、そんな彼らの心の軌跡を、様々なエピソードを通じて、丁寧に描き出す。二重スパイである恋人ケティへの疑惑に揺れながら、愛を信じようとするフレメン。離れ離れの生活から、妻と娘に去られ、妻の恋人に、彼女を不幸にしないでくれとに、脅すように頼み、姿を消していくシトロン。ギリギリまで追い詰められた彼らが、必死に愛を求め、愛に傷つく姿が、彼らの人間性を浮き彫りにする。フレメン役のトーレ・リントハート(「天使と悪魔」)、「007/カジノ・ロワイヤル」の悪役ル・シッフル役で一躍世界に知られた、シトロン役のマッツ・ミケルセンーデンマークを代表する二人の国際派俳優が、揺れ動く二人の心理を、陰影深い演技で見事に演じ、深みのある人間ドラマを作り出す。
 また、権力者の走狗となった事を知り、自身の行為に疑念を持ちながらも、自らの正義と信念を貫き、上層部の意向を無視して、ゲシュタポのリーダー、ホフマン暗殺を決行しようとするに至る二人の行跡を軸に、数々の暗殺場面がサスペンス豊かに描かれていく構成が、エンタティンメント的な面白さをも生み出し、手に汗握るサスペンス・アクションとして観客を楽しませる事も忘れていないのも流石だ。”(戦争という非常時の)生き方の選択”"組織の中の個”といった現代にも通じるテーマを、押し付けるのではなく、見る者を楽しませながら、自然に胸に問いかけるような作風は、映画作りに熟知した大人の視点を感じさせる。
 本作は、デンマークの王国公文書館が資料を公開しなかっため、60年余に渡り秘められていた出来事を、丹念な取材を重ねて映像化した作品である。第二次大戦の生んだ悲劇を今に伝えようととする作り手たちの懇親の思いーそれは、世界中のどこかで戦火に傷つく人々が存在する現在(いま)を生きる我々が、忘れる事なく、明日へ伝えていくべきもの。その思いが、一人でも多くの方に伝わるのを願ってやまない。作品のヒットを祈りたい。

daregatame04.jpg第二次大戦の悲劇は、決して過去の遺物ではなく、世界中のどこかで戦火が巻き起こる現在(いま)を生きる我々が、忘れる事無く胸に刻み込むべきもの。その事実を今に伝えようとする、作り手の渾身の思いが、一人でも多くの方に伝わるのを願ってやまない。

「誰がため」
FLAMMEN&CITRONEN
2008年 デンマーク=チェコ=ドイツ合作
カラー 136分

監督/オーレ・クリスチャン・マセン
製作/ラース・ブレード・ラーベク
脚本/オーレ・クリスチャン・マセン、ラース・K・アナセン
撮影/ヨーン・ヨハンセン
音楽/ハンス・メーラー
編集/サアアン・B・エベ
出演/トゥーレ・リントハート、マッツ・ミケルセン、クリスチャン・ベルケル アルシネテラン

配給:アルシネテラン

12月、シネマライズほか全国順次ロードショー

公式HPhttp://www.alcine-terran.com/tagatame/

【映画ライター】渡辺稔之

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2009年11月19日 by p-movie.com

マイケル・ジャクソン THIS IS IT

マイケル・ジャクソンは死んでいない。少なくともこの映画の中では彼の死について言及されず、再起に意欲を見せる”キング・オブ・ポップス”が永遠の若さを手にしたままフィルムに焼きついている・・・

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とまあ、前口上を垂れたところで、私もこの10年間、マスコミによって垂れ流されてきたマイケルに関する都市伝説にも似たゴシップを面白おかしく眺めてきた輩である。

是枝作品『歩いても歩いても』で主人公はこう言う。「ほら、人生はいつも、少しだけ間に合わない」。”THIS IS IT”に触れた多くの観客もまず懺悔から始めると思うのだ。間に合わなかった何かを少しだけ心の中で埋め合わせながら。

そしてマイケルはそれを許すとも、許さないとも言わぬまま、ただスクリーンで「怒ってるんじゃないよ。L・O・V・Eだよ」とだけ答えるのだ。

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あるいは、暗闇から幕を開けるこのドキュメンタリーが、オランダから来たという若者に第一声を託したのにも、なんだか胸の中が熱くなる感慨があった。マイケルと父子ほど年齢の離れたオーディション参加者たちが、いかに自分がマイケルに影響されて人生を歩んできたかを吐露するのだ。
みんな目がキラキラしている。今や僕らはこの輝きを指さして嘲笑したりできようものか。みんないつだってマイケルのことが大好きだったのだ。あなたも私も、小中学生のときにあれほど学校で「ポウ!」と叫んでいたではないか。

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再起不能とも言われていたマイケルが、ステージ上を華麗にムーンウォークで移動している。たった一小節の中に組み込まれる繊細なダンス、「ンーダッ!」という唸り声、空を舞うような高音、そして両手を広げてどこかへ飛翔するかのようなポージング。

カリスマとして君臨してきた彼が、スタッフたちと打ち合わせる姿も興味深い。感覚的、詩的な表現で指示を出すマイケルに対して、スタッフは彼に敬意を表しつつ、丁寧に食い下がって確認を重ねていく。こういうシーンを目にすることで僕らはなんだかとても安心する。人間というものは、誰かを介して見つめられたときにこそ、最もその”人となり”が明らかになるものだから。

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ここには不安神経症の王子様など存在しない。人と人の間で創造性を発露しつづけるアーティストがいるだけだ。また、そのリハーサルの神々しさに触れたダンサー、ミュージシャン、セッティング・スタッフが、我々の代わりに歓喜し、手をウェイブさせ、盛り上がる姿があるだけだ。マイケルも彼らに感謝の言葉を表明する。

「みんなよくやってる。理解と忍耐をもって前に進もう。世界に愛を取り戻そう」

彼の言う「愛」はついに商業的な愛に染まることはなかった。かといって具体的な愛というわけでもなく、それはあたかも初めて愛を覚えた少年が、その感慨を「そのまま」の純真さで生涯あたため続けてきたかのようだった。

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同じく「みんな変わろう」と呼びかける彼は、ちっとも具体的ではなかった。

しかし今になって初めてわかるのだ。

彼は具体例を示す代わりに、歌い、踊ることを選んできた人間だったのだと。

『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』
公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/michaeljacksonthisisit/
2009.10.28(水)全世界同時公開

【映画ライター】牛津厚信

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2009年11月6日 by p-movie.com

SING FOR DARFUR

タイトルの読み方は”シング・フォー・ダルフール”。
紛争が続くダルフール支援のためのコンサート開催当日のバルセロナを舞台に、
国際情勢に無関心な人々の姿を浮き彫りにする群像劇。
昨年の東京国際映画祭で上映され、多くの観客から賞賛を浴びた注目作。

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 バルセロナの朝。

クルマのラジオからは、今夜ダルフール支援のためのコンサートが開かれるというニュースが流れている。
だが、運転している男は渋滞に苛立ち、ニュースに八つ当たりしている。
なんとか駐車場へたどり着くと、急ぎ着替えて広場へ。
道化師として街角に立つその男に、出演者目当てでコンサートに訪れた女性が近づいて記念撮影。
彼女は歩き出すが、持っていたバッグをスリの少年に引ったくられてしまう…。

タイトルに反して、劇中にダルフールの状況を伝える映像は一切登場しない。
描かれるのは、人々が忙しそうにすれ違う、ごく普通の都会の風景。
街行く人を追うカメラはすれ違いざまに被写体を入れ変え、
人種も職業も様々な人々の姿を次々と捉えてゆく。
ほぼ全編モノクロの映像とテンポのよい音楽をバックに、
ユーモアを交えながら描かれてゆくヴィヴィッドな街角の風景。

sing2.jpg友人と遊びに出かける少女。
TVゲーム片手に歩く少年。
水鉄砲でいたずらする無邪気な子ども。
国際的に活躍するビジネスマン。
パブでビール片手に与太話を繰り広げる男たち。
仲睦まじく歩く日本人老夫婦。

ドキュメンタリーではないが、
あたかも自分がバルセロナの街で人々を観察しているかのようだ。
誰しもその中に”自分に似た”人物を発見するに違いない。
それぞれの事情で行動し、一見、何の共通点もないように見える人々。
だが、ただひとつ共通しているものがある。
それは、誰一人として今日行われるコンサートの目的に興味を示さないということ。
中には話題に上げる人もいるが、その口から出てくるのは
「サッカーが弱い国は暴動が起こる」
「自分たちでなんとかしないとダメだ」
と好き勝手な言葉ばかり。
なぜ、こんなにも人々は世界の片隅で起きていることに無関心なのか?
悲惨な状況を耳にしつつも、無関心である人々への疑問が湧き上がってくる。
だが同時に、その街角に自分自身も立っていることに気付いてしまう。
無関心なのは誰でもない、映画を見ている我々だったのだ。

ヨハン・クレイマー監督の言葉によると、この映画を作るきっかけになったのは、
ダルフールに対する自分自身の無関心さに対する苛立ちだったという。
だが、完成した映画から苛立ちは感じられない。
都会の生活を冷ややかに見つめているわけでもない。
ただ、無関心であることをやめて、
世界で起こっていることに目を向けてほしいと願うささやかな気持ち。
そんな想いがストレートに伝わってくる、優しさに溢れた作品だ。
その想いを、1人でも多くの人に受け止めて欲しい。

 

『SING FOR DARFUR』
2009年10月3日よりヒューマントラストシネマ渋谷他 順次公開
公式サイト:http://www.plusheads.com/singfordarfur/
(C) Sing for Darfur powered by PLUS heads inc.

【映画ライター】イノウエケンイチ

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2009年10月15日 by p-movie.com

イメルダ

60~80年代に独裁者としてフィリピンに君臨したマルコス大統領夫人、イメルダ。
その美貌と華やかな振る舞い、亡命後に判明した想像を絶する贅沢や不正蓄財など、
センセーショナルな話題を振りまいてきた彼女が、初めて自らその半生を語ったドキュメンタリー。

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子供の頃から美貌と利発さで注目を集めたイメルダは、首都マニラで若き政治家マルコスと出会い、
10日足らずで電撃結婚。マルコスの大統領就任後はファーストレディーとして内政・外交両面で活躍する。
だが、国民を無視した文化センター建設など独善的な政治が災いし、信用は失墜。
戒厳令を敷き20年もの間、権力の座にとどまるが、86年、遂に失脚。ハワイへの亡命を余儀なくされる。
その後、宮殿に残された3000足の靴に象徴される数々の贅沢や800億円に上る不正蓄財が明らかになった…。

現在のイメルダを伝える取材映像とこれまでの歩みを振り返る記録映像、二方向からのアプローチで構成。
リアルタイムで彼女を知らない人間にも、独特の魅力を持つ人間性がよく伝わってくる。

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2009年8月28日 by p-movie.com

G.I.ジョー

この戦い、かなり刺激的。

40年以上に渡って全米で人気を誇るフィギュアシリーズをベースにしたアクション大作。
監督は「ハムナプトラ」シリーズのスティーブン・ソマーズ。
秘密兵器満載で、爽快感溢れるスピーディーなアクションが見どころ。

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NATO軍の精鋭部隊を率いるデューク(チャニング・テイタム)とリップコード(マーロン・ウェイアンズ)は、新兵器ナノマイト運搬中に謎の組織”コブラ”の襲撃を受ける。
秘密部隊”G.I.ジョー”の援軍により、ナノマイト強奪は阻止したものの、部隊は全滅。
指揮官ホーク(デニス・クエイド)は、生き残ったデュークとリップコードを”G.I.ジョー”のメンバーに迎える。

彼らの前に立ち塞がるのは”コブラ”の強敵ストームシャドー(イ・ビョンホン)とバロネス(シエナ・ミラー)。だが、バロネスはかつてデュークの恋人だった…。

スパイダーマンやバットマンなど、アメコミヒーローにもメッセージ性が求められ、ジェームズ・ボンドがシリアスな方向へ舵を切る昨今。
時流に逆らうように、頭を空っぽにして楽しめる直球のアクションエンターテイメントが登場した。

息つく間もなく畳み掛ける秘密兵器とアクションのつるべ打ちがとにかく圧巻。
スーパーパワーを発揮する加速スーツに、ミサイル飛び交うカーアクション、地底を進むドリル戦車などが続々登場。

敵味方入り乱れての新兵器争奪戦に悪の秘密基地という設定も元々、アクション映画の得意分野。
だが近年はこういう荒唐無稽さが影を潜め、ハイテクビルやコンピュータネットワークの悪用といった、
より現実的な設定が好まれてきた。

それは映画にリアリティをもたらす反面、自由なイマジネーションを阻害し、アクション映画なのにどこか重苦しいというジレンマを生んでいたのも事実。
だが、基本に立ち返った本作は、この重苦しさから解放。
かつてのジェームズ・ボンドを彷彿とさせる爽快な映画に仕上がった。

さらに、多彩な顔ぶれの出演者にも注目。
アジアの大スター、イ・ビョンホンが本作でハリウッド・デビュー。
派手なチャンバラアクションに加え、ファンサービスとして、肉体美もしっかり披露してくれる。
さらに、ジョニー・デップ主演作「パブリック・エネミーズ」(12月日本公開予定)にも出演のチャニング・テイタム、「スター・トレック」のレイチェル・ニコルズなど注目の若手に加え、「バンテージ・ポイント」のベテラン俳優デニス・クエイドまで幅広くキャスティング。

覆面の戦士スネークアイズに扮するのは、「スターウォーズ エピソードⅠ」で悪役ダース・モールを演じたレイ・パーク。
美男美女から渋いオヤジまで、よりどりみどりで楽しめる。

キャラクターの個性が薄いのがやや惜しいところだが、敵味方の因縁話を盛り込むなど、人物を描こうという意欲の一端は伺える。
この点についてはシリーズ化もありえるだけに、次回以降に期待したいところだ。

と、理屈っぽい話はさておき。
ひとまずは頭を空っぽにして、最新VFXの生み出す爽快なアクションを心ゆくまで楽しんでほしい。

 

『G.I.ジョー』
8月7日(金)日米同時公開
公式サイト:http://www.gi-j.jp/
(C) 2009 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

【映画ライター】イノウエケンイチ

 

 

 

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2009年8月5日 by p-movie.com