ゼロ・グラビティ



(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.



いきなり中学生の英単語集のようで恐縮だが、邦題の「ゼロ・グラビティ」とは「無重力」という意味。一方、本作のそもそもの原題は”Gravity”だ。つまり「重力」。本作を観るにあたってはその両方を把握しておくと、タイトルに込められた意味合いがギュンと重力のごとく身を貫き、この映画を存分に楽しめることになるだろう。

映画の舞台は、地球からそう離れていない宇宙。3D効果も相俟って無重力をフワフワと漂う我々は、カメラが少しずつ少しずつ旋回することで、やがて宇宙空間で作業中のサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーの姿を確認できる位置にまで到達する。サンドラは黙々と作業中。それに対してジョージはジェット噴射で自由自在に無重力空間を移動しながら、これが最後になるであろうミッションをリラックスして楽しんでいる。と、ここで我々はハッとする。序盤、もう随分とカメラが回っているのに、全く切れ目無くワンカットで撮られていることに驚かされるのだ。いったいぜんたいどんな魔法を使っているというのだ。

この映画の撮影監督を務めたのはエマニュエル・ルベツキ。過去に『ツリー・オブ・ライフ』や『トゥモロー・ワールド』などでアカデミー賞の撮影部門でノミネートを受けてきた逸材だ。新作を発表するごとにその手腕はどんどん神がかっていくばかりだが、今回は別格の域。彼自身がいったいどんな態勢で被写体に寄り添い、これら観たこともない映像を刻んでいったのか、もはや想像すら及ばない。

そんなことを考えながら観ていると、突然、宇宙空間で作業中の彼らの元へ、ヒューストンからの緊急連絡(この管制室の声を担当するのが『アポロ13』にも出演したエド・ハリスだ)が飛び込んでくる。

「いち早く、脱出せよ!」

ロシアが破壊した自国の人工衛星の残骸が地球の軌道を漂い、もうしばらくするとこの地点に大量に流れ込んでくるというのだ!細かい破片と化したそれらの弾丸のような凶器は、やがて隕石群のように容赦なく襲いかかってくる。そしてサンドラと宇宙ステーションとを繋いでいた命綱は無情にも切断され、彼女は宇宙空間の真っ只中へ。同時ミッション中のジョージ・クルーニーの安否は?そしてステーションに滞在中の仲間たちは?そんな心配もよそに、どんどんと遠のいていく彼女。酸素もみるみるうちに減少していく。果たしてサンドラはこの後、無事に生還できるのだろうか!?

上映時間はほぼ90分。リアルタイムにも等しい時間の流れの中、我々はサンドラ・ブロックの宇宙空間サバイバルに身を委ねる。もうダメだ、もう無理だ。そう口をついてこぼれる弱音を粉砕するかのように、この映画には思いがけない展開が待っている。最後の一分、一秒まで諦めさえしなければ、何かが起こりえるかもしれない。それは何も宇宙空間に限らず、私たちが生きる現実世界だって同じことだ。

今やインターネットで世界中が繋がり、我々は秒速での判断が求められるようになってきている。そんな中で無重力空間に放り出されたかのように心身虚脱して「ああもうだめだ」と感じる時もあるだろう。だがそんな時にこそこの映画を観てほしい。サンドラ・ブロックの魂に寄り添い、エマニュエル・ルベツキが映し出す映像に身を委ねてほしい。この冒険を追体験することできっと、自らの呼吸や鼓動を意識し、身体に伸し掛かってくる地球上の重力をグッと受け止め、その果てに、自らが今この地上に立つことの意味さえもしっかりと噛み締めることが出来るはずだ。

そして、最後に私たちは監督のアルフォンソ・キュアロンに思いを馳せよう。『トゥモロー・ワールド』から7年、本当に長かった。これほど新作が期待された監督は他にいないのではないか。もともとアンジェリーナ・ジョリーが主演に決まり、製作スタジオが変更となり、共演に決まっていたロバート・ダウニー・Jr.が離脱を表明し、誰もがこの映画は途中で制作中止になるのではないかと気を揉んだ。ところが違った。最後の一分一秒まで諦めなかったのは劇中のサンドラ・ブロックだけでなく、キュアロンもまた同じだったのだ。そしてピンチを最大のチャンスに変え、こんなにも壮大かつ等身大のSFサバイバルを我々のもとに届けてくれた。これぞ最高のクリスマス・プレゼント。皆、心して生き抜いてほしい。そして無事に帰還せよ!

<CREDIT>

■出演者:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー
■監督: アルフォンソ・キュアロン
■配給:ワーナー・ブラザース映画

2013年12月13日(金)全国ロードショー
公式ホームページ http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/

(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

【ライター】牛津厚信


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2013年12月10日 by p-movie.com