戦火の馬


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マイケル・モーバーゴが、第一次大戦に取材した同名児童小説、およびそれに基づく舞台劇「軍馬ジョーイ」を映画化したもので、馬の視点で描いた舞台劇が斬新だったために、それと比べられて海外の評は必ずしも絶賛ばかりではないという話を聞いたが、私は良い作品だと思う。
空撮を駆使して馬の誕生に迫っていく冒頭のシーンを見ただけで、”ああ、スピルバーグが帰ってきた”という思いを抱かせ、安定した演出力は、安心して見ていられる信頼感を生み出す。

第1次大戦に徴用された馬のジョーイの数奇な運命を、ジョーイを育てた少年アルバートとの交情を軸に描いた作品だが、中盤、戦争という過酷な状況下でジョーイを守ろうとする人々のエピソードがオムニバス的に展開する。
敵軍に迷い込んだジョーイと黒馬のトップソーンを世話するギュンターとミヒャエルの若い兄弟。
脱走した彼らが残したジョーイとトップソーンをドイツ軍の目から隠す少女エミリーとその祖父。
再びドイツ軍の手に渡った2頭の馬を、奴隷のようにこき使い、使い捨てにする上層部に反発し、イギリス軍の砲撃にさらされたジョーイを逃がすドイツ人砲兵。それぞれの逸話がよどみなく語られ、そこから自然にジョーイを守ろうとする彼らの思いが伝わってくる。

もちろん、スピルバーグならではの映像のスペクタクルも随所にあり、イギリス南西部の美しい自然の中に成長するジョーイを捉えた叙事詩的映像、イギリス兵の突撃シーンの躍動感、戦車に追われ、ジョーイが戦場を逃げ惑うシーンの臨場感等、映画的ダイナミズムを大いに堪能できるのだが、それが一人歩きすることなく、物語を語ることに徹した正攻法の描き方の中に、さりげなくもりこまれているところに、成熟した大人の視点が感じられる。

スピルバーグは、本作のワールド・プレミア時に、3.11の悲劇にみまわれた我々日本人に”希望”のメッセージを送ったが、戦場を駆け抜けるジョーイの勇姿、その力強さは、見る者すべての心に”明日への希望”を湧き起こさずにはおかない。こんな時代だからこそ、一人でも、多くの人に見てもらいたい秀作である。

<CREDIT>

キャスト:ジェレミー・アーバイン、エミリー・ワトソン、デビッド・シューリス、ピーター・ミュラン、ニエル・アレストリュプ、トム・ヒドルストン、デビッド・クロス、パトリック・ケネディ、セリーヌ・バッケンズ、トビー・ケベル、ロバート・エムズ、エディ・マーサン
監督:スティーブン・スピルバーグ
上映時間:147分
配給:ディズニー

2012年3月2日公開
公式ホームページ http://disney-studio.jp/movies/warhorse/

【ライター】渡辺稔之


カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2012年2月29日 by p-movie.com