キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

なぜ彼は、世界最初のヒーローと呼ばれたのか―。

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

コミックスでは1941年に初登場を果たした、マーベルの中でも最古参ヒーローのひとり。この全身を星条旗であしらったかのようなコスチューム・デザインを一目見るや、なぜ彼がマーベル映画の世界戦略において最後の最後まで“出し渋り”されていたのか理解できるというものだ。

アメリカがまだある程度、世界のリーダーとしての余力を保っていた時代に彼がお目見えしたなら、それは世界中の反感を買ったことだろう。今だから許される。すっかり弱体化してしまったこの国に星条旗男の映画が産み落とされたとして、それはアメリカ万歳という発想には直結しない。むしろ生じるのは古き良き“ノスタルジー”。それを、あのロケットボーイズたちの挑戦劇『遠い空の向こうに』の名匠ジョー・ジョンストンが描くのだとするなら、そこで立ち現われてくるであろう“ほろ苦い空気”を観賞前の我々がイメージするのはそう難しいことではない。

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

主人公は小柄な体格で幾つもの持病もちの青年スティーヴ・ロジャース。1940年代、アンクル・サムが”I Want You!”と指をさして若者たちの戦意を高揚させていたころ、彼は幾度となく兵役検査に引っ掛かり入隊を断られていた。しかし彼ときたら、おそらくマーベル・コミックのヒーローたちの中でも1、2位を争うくらいに真っ直ぐな人間。映画の中でいくつも重ねられていく善人エピソードの数々。そうしていつの日か、彼にチャンスが訪れる。軍が進めるスーパーソルジャー計画の被験者となってもらいたいとスカウトされるのだ。二つ返事で承諾した吹けば飛ぶようなヒョロヒョロな彼は、装置に入って出てくるや筋骨隆々のたくましい男へと様変わりしていた。

時は満ちた。このとびきりのパワーを使って彼はナチス・ドイツ極秘計画の粉砕にいざ向かう!!

などと、すんなりとはいかないのだ。

ページをめくると彼はステージ上のヒーローとして全国行脚しながら観客に戦時国債の重要性をミュージカル調でアピールしている。今や彼はアンクル・サムと同じ位置に収まった。もちろんスーパーパワーは持ち腐れ。それは彼を深い葛藤へと追い込んでいく。

そしてある日、仲間の突撃部隊が敵陣で消息を絶ったとの情報を耳にしたとき、彼の中で固い決意が奮い立つ。ステージ上のキャプテン・アメリカは遂に現実のスーパーヒーローとなって、いま、最も危険なエリアへたった一人で突入劇を敢行しようとしていた―。

長い!ここまでが長い!ヒーロー映画というよりは、ひとりの男の苦悩を綴ったドラマがひたすら続く。しかしそれが駄作であるというわけでは毛頭ないのだ。むしろ、だからこそ面白い!ドラマ最高!ビバ!ノスタルジー!まるで『遠い空の向こうに』の青年たちが、ひとつのロケットを空高く打ち出すべく醸成していった人間ドラマのように、ここでもスティーヴ・ロジャースがヒーローとして起つまでをひたすら根気強く、丁寧に映像化していく。

とりわけジョンストン作品で幾度も描かれる“父子の関係”がここでもポイントとなる。そもそもロジャースには父親がいない。でもだからこそ、彼の長所を最初に見抜いた亡命博士(スタンリー・トゥッチ)との間に堅い絆が垣間見られる瞬間がある。

そして軍隊生活ではトミー・リー・ジョーンズ演じる気難しい大佐の背中にも武骨な父親像が見え隠れする。彼らの一方通行のやり取りがまるで分かりあえない父子のようでなんとユニークなことか。

彼らトゥッチとジョーンズのキャラがふたつ合体すると、理想的なロジャースの父親像ができあがってくるかのようだ。

また、もうひとつの鍵となるのが次回作(2012年夏公開)となるマーベル・ヒーロー大集合ムービー『アベンジャーズ』への布石である。『アイアンマン』、『マイティ・ソー』との結節点を多分に盛り込み、人物、アイテム、世界観などが密接に絡まり合っていく様を、息を呑んで見守ることになるだろう。

そして訪れるラスト、『アベンジャーズ』と時代背景を合わせるべく、キャプテンは現代へと降臨を果たす。その衝撃はしかと本編で確認していただくとして、そのクライマックスが本当に切ない。こんなんでヒーロー映画と呼べるのかってくらい切なすぎる。試写が終わって感想を口にする人たちからも幾度となく「せつねー!」という声が漏れ聞こえた。とくにロジャースの最後のセリフにホロッと泣かされてしまう。

この余韻に浸りながら、今日、もう何度目だろう、またもや『遠い空の向こうに』のキュンキュンくる感触のことを思い出していた。そして帰り路のあいだ中、今日は早く戻って、あの名作のDVDを蔵出し再見しようと心に決めていた。

僕の中で『キャプテン・アメリカ』はマーベル映画でありながら、やはりジョー・ジョンストン印の、何かが噴射して空高く上昇していく高揚と感動に満ちた映画なのだった。

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

公式ホームページ http://www.captain-america.jp/
10月14日(金)丸の内ルーブルほか全国超拡大3D公開

(C)2010 MVLFFLLC. TM &(C)2010 Marvel Entertainment, LLC and its subsidiaries. All rights reserved.

【ライター】牛津厚信

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー


カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2011年10月17日 by p-movie.com