東京フィルメックスの特別招待作品として濱口竜介監督の『The Depths』が上映された。会場には濱口監督の前作『PASSION』に魅了された人やキム・ミンジュンさんをはじめとする出演者のファンの方々が期待を胸に多数詰めかけていた。
本作は東京藝大大学院と韓国国立映画アカデミーが共同で製作。2校間で行われたコンペでこの脚本が選ばれ、その後、濱口監督に「やってみないか?」と声がかかったという。
作中では韓国語と日本語、ふたつの言語が乱れ飛ぶ。そしてなにかと“関係性”について考えさせられる。男と女、男と男、女と女、写真家と被写体、対向車線。それらは互いに並走し、交錯し、離反していく。またその一連の過程はカメラを介した「観察し、照準を合わせ、撮る」という儀式的動作とも連動し、呼吸を同じくしているように思えた。
主人公は韓国人の写真家ぺファン。親友の婚礼のために来日した彼が空港から都心部へ向かう列車内で映画は幕を開ける。おもむろに外へ向けられるカメラ。ファインダー越しに映る車窓の風景。続くシャッター音。写真家という神の視点によって、街の風景が次々と切り取られていく。
披露宴は新婦の逃亡でお通夜のような転調を余儀なくされた。彼女はこともあろうに女の恋人と共に式場を去ったのだった。それを間近で目撃しながら親友に打ち明けられないぺファン。いやそれよりも彼は、新婦が去りゆくなか、眼前を風のように通り抜けていった青年の相貌が忘れられない。あのとき、彼は無心でシャッターを切った。そして運命のいたずらはふたたび彼らを結びつけることに。。。
監督によるとdepthとはカメラ用語の“深度”を意味し、それに複数形のsをつけると今度は“人の心の奥底”という意味に転じるのだという。このタイトル通り、すべての俳優がキャラクターに照準を合わせ、心の奥底を剥きだしにして、覚悟を決めて役を演じきっている。
またQ&Aで村上淳さんは監督の力量をこう表現した。
「濱口監督の傑出した才能のウワサはずっと聴いてたんですが、今回はじめて一緒に仕事してみて本当に映画と真っ直ぐに向き合ってる監督だなと感じましたね。何よりも『よーい、スタート!』の声がデカイんですよ。これってすごく大切なこと。俳優にとって実に頼もしい存在に思えました」
今後、濱口監督が日本の映画界を牽引していく存在になる過程をしかと注視していきたい。
『The Depths』The Depths
日本、韓国 / 2010 / 121分
監督:濱口竜介 (HAMAGUCHI Ryusuke)
公式サイト http://filmex.net/2010/
【ライター】牛津厚信
カテゴリー: お知らせ | 東京フィルメックス特集 | 特 集
2010年12月2日 by p-movie.com