ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1

2001年から続いてきた映画版もいよいよ最終章へ突入。11月19日公開の「PART1」と、2011年7月15日公開の「PART2」で正真正銘のフィナーレとなる。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』よりシリーズを統率してきたデイヴィッド・イェーツ監督曰く、「Part1はロードムービーに、Part2はオペラと呼ぶにふさわしい壮大なものになる」とのこと。さて、今回の“ロードムービー”とやら、完成度のほどは?

その冒頭、今回初登場となる英国俳優ビル・ナイの超アップ映像が風雲急を告げる。ビル・ナイとイエーツといえば『ある日、ダウニング街で』(05)の主演&監督コンビとして高評価を受けた仲。ついにこの俳優が顔を出してきたことからも、シリーズ最終レーンのゴングの高鳴りが聞こえてくる。

彼が演じるのは新たな魔法大臣。ついに公に悪の帝王ヴォルデモートの復活を認め、もう世界は安全ではなくなった、と事実上の非常事態宣言を発令する役割だ。

その切羽詰まった渦中でくだされる魔法使いそれぞれの決断、別れ、そして旅立ち。

ハリー、ロン、ハーマイオニーらは大人たちのもとを離れ、7つの「分霊箱」を探す旅に出る。それらはヴォルデモートの魂を分離し、彼の力を最強たらしめている秘密でもある。ハリーたちがヴォルデモートを倒す唯一の方法は、これら分霊箱をひとつひとつ破壊し、悪の帝王の力を少しずつ削ぎ落していくことだった―。

実は今回の映画版で個人的にとてもショックなことがあった。僕が「ハリー・ポッター」原作を通して最も好きだった場面、太っちょで意地悪な従兄ダドリーがハリーに感謝の言葉を口にするシークエンスが丸っきりカットされているのだ。この箇所を読みながら不覚にも涙したというのに、なんということだ。。。しかし映画の資料に目を通すと、製作を担うデイヴィッド・ヘイマンの言葉にその舞台裏が垣間見えた。

「僕らは第3作目を境に、物語をハリーの目線で描こうと、方向転換したんです」

なるほど、だからこそ本作は第3作目から驚くほど洗練されていったのだ。太っちょ従兄ダドリーの主観にスポットが当たらなかったのは極めて残念だが、ここは涙を呑み、謹んで本作の更なる輝きに期待しよう。

と、心新たに臨んだ『ハリー・ポッター』。もはやかつてのキッズムービーの様相はどこへやら。そのあまりのダークさには大人の観客であっても身をのけぞらせてしまうことだろう。魔法戦闘シーンも『賢者の石』の頃のような杖を振ってパパパパーンと光が放射される趣向は毛頭なく、もはや戦争の域。銃撃戦のように激しく小刻みに容赦のない破壊合戦が繰り広げられる。

幼なじみの3人がこれまで慣れ親しんできたホグワーツやロンの自宅を離れ、全く勝手を知らないロンドンの繁華街やスコットランドの大自然へと身をさらす。これってまるで青年の通過儀礼みたいだ。幼いころより彼らの成長を見守ってきた観客側としても胸が熱くなるのを禁じえない。

また、史上最もお金のかかったこのロードムービーは、実のところそのロード部分に関しては“杖ひと振り”の瞬間移動で事足りるので、路上を楽しむ醍醐味こそ欠ける。が、それでも彼らが精神的な葛藤を乗り越えて結束力を高めていく過程を見つめる上で、やはり“ロード”は出現している。

いや、これはストーリー上というよりもむしろ、演技上の達成度が素晴らしいせいかもしれない。これまではあまり意識していなかった3人の青年俳優のプロフェッショナリズムが、今回いよいよ英国名優たちの力に依存しない形で“一人立ち”をはじめたな、と思えるのだ。それゆえのロードムービー=俳優修業=最期の試練というわけだ。

ちなみに本作は2D撮影後に3D変換処理がなされるはずだったが、その作業が間に合わず、ワーナーブラザーズは本作を2D版のみで上映する決断をくだした。だが、幸か不幸か、結果的にそれでよかったと僕は思っている。それは、本作は随所に3Dを意識した奥行きのある撮影方法を取っているものの、全体的にあまりにダークで、衝撃性を伴った演出が組み込まれており、小学生の観客が3Dで享受するには刺激が強すぎるように感じたからだ。

アメリカでのレーティングでは『炎のゴブレット』『不死鳥の騎士団』以来となる「PG-13」指定(前作『謎のプリンス』は“PG”だった)。これは想像でしかないが、本作が仮に3Dで公開されたならば、もう少しレーティングが厳しくなったのではないだろうか。そういう危惧を覚えるほど本作には緊迫感が満ち満ちている。ってことはむしろ大人の観客にとっては打ってつけということでもある。

さて、「PART2」ではいよいよクライマックスの大戦闘が待っている。その舞台にはPart1でほとんど描かれることのなかったホグワーツ魔法魔術学校がフィーチャー。イェーツ監督の奏でる「壮大なオペラのごときフィナーレ」は一体どう華々しく緞帳を下ろすのだろうか。

公式サイト http://harrypotter.warnerbros.co.jp/hp7a/
11月19日(金)、丸の内ピカデリー他全国ロードショー

(C)2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. HARRY POTTER PUBLISHING RIGHTS(C)J.K.R.  HARRY POTTER CHARACTERS, NAMES AND RELATED INDICIA ARE TRADEMARKS OF AND(C)WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

【ライター】牛津厚信

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カテゴリー: アメリカ | ヨーロッパ | 映画レビュー

2010年11月19日 by p-movie.com