そう、その男の名は、ヴァッシュ・ザ・スタンピード―
2007年まで12年に渡って月刊誌に連載された人気漫画家、内藤泰弘の星雲賞受賞作を映画化。
荒野の惑星を舞台に、伝説のガンマンの活躍をアクションと笑いのてんこ盛りで描く純度100%の痛快エンターテイメントアニメ。
超絶ガンテクニックを持ちながらラブ&ピースをモットーとする主人公ヴァッシュのキャラクターが出色。
砂塵渦巻く荒野の惑星。西部開拓時代の米国さながらの世界で、人々は点在する街に暮らしていた。
その街の一つを大強盗ガスバック(声:磯部勉)が襲撃するとの噂が流れる。
街の防衛のために各地から集められる賞金稼ぎたち。
その中には、行く先々で混乱と破壊を呼び、”ヒューマノイド・タイフーン”と恐れられる
賞金首ヴァッシュ・ザ・スタンピード(声:小野坂昌也)の姿もあった。
だが、ヴァッシュの素顔はお調子者で女好きの平和主義者。
道中知り合った女賞金稼ぎのアメリア(声:坂本真綾)を呑気に追い掛け回していた。
やがて現れるガスバック一味。
大銃撃戦の最中、ヴァッシュ、ガスバック、アメリア、それぞれの秘めた想いが交錯する…。
世界観はSFながら、そこで繰り広げられるのは、西部劇さながらの銃撃戦。
SFマインド溢れる銃器とミックスされたレトロフューチャーなビジュアルと派手なアクションが楽しい。
純粋な娯楽作品なので、コーラとポップコーンを脇に置いて気軽に楽しむことができる。
原作漫画を知らない人にも配慮されており、映画で初めて作品を知った人でも問題ない。
だが本作がユニークな点はSF的世界観よりも、
真紅のロングコートがトレードマークの主人公”ヴァッシュ・ザ・スタンピード”のキャラクターにある。
伝説のガンマンという評判とは裏腹に、ヴァッシュは絶対に人を殺さない。
たとえ自分を狙う犯罪者であっても、絶対に人の命は守り抜く。
その理由はヴァッシュ自身が劇中で語る。
“だって、生きている方がいいじゃないですか。”
単純明快な答えだが、今までそれを徹底した作品はあっただろうか。
もちろん、それが甘い考えだと批判される場合もあるが、彼はポリシーを曲げない。
犯罪者を助けることで、悲しい思いをする人間が出てくることも承知の上で、その責任まで抱え込もうとする。
反戦、不戦をテーマに掲げていても、大半の主人公たちはやむを得ない犠牲として敵を倒してきた。
だが、ヴァッシュはそうしない。
相手の弾丸に自分の弾丸を当てて弾道を逸らす、一瞬で相手の拳銃の弾丸を抜き取る…。
彼の超絶ガンテクニックは、人の命を救うためのものなのだ。
今までヒーローは、悪を倒すために誰よりも強くなければならなかった。
だがヴァッシュは人並み外れたガンテクニックを、強さの誇示ではなく、誰よりも深い優しさの表現に使う。
強さより優しさ。その根底あるのは性善説。
“肉食系、草食系”という言葉が市民権を得た今日、積極的に敵を倒す従来のヒーローを”肉食系”とすれば、
ヴァッシュを21世紀型の”草食系ヒーロー”と呼んでもいいかもしれない。
人命が軽視される今の時代、強さの裏に隠れたヴァッシュの優しさが胸に残る良作だ。
「劇場版TRIGUN(トライガン) -Badlands Rumble-」
2010年 日本映画
カラー 90分
【スタッフ】
監督:西村聡
原作:内藤泰弘
原案:内藤泰弘 、 西村聡
キャラクター・デザイン:吉松孝博
音楽:今堀恒雄
メカニックデザイ ン:神宮司訓之
【キャスト(声)】
ヴァッシュ・ザ・スタンピード:小野坂昌也
ニコラス・D・ウルフウッド:速水奨
メリル・ストライフ:鶴ひろみ
ミリィ・トンプソン:雪野五月
配給:クロックワークス
© 内藤泰弘/少年画報社・トライガン製作委員会
2010年4 月24日(土)より全国ロードショー
公式HP:http://www.trigun-movie.com/
【映画ライター】井上健一
カテゴリー: 映画レビュー
2010年5月14日 by p-movie.com