冒頭いきなり、ボンドカー=アストン・マーチンの激しいカーチェイスが展開。
これぞボンド!という見せ場で観客の心を鷲掴みにする。
今回のボンドは、とにかくハードでクールでスピーディー。
なにしろ、前作で愛する女を失った直後の物語だ。
ビーチでのんびり女性を口説いている暇などない。
敵の追跡を振り切り、アジトにたどり着いたボンド(ダニエル・クレイグ)が
引きずり出したのは、前作ラストで狙撃したミスター・ホワイト。
M(ジュディ・デンチ)も登場して取調べを開始しようとしたその時、内部の裏切りが。
ボンドの新たな追跡が始まる。やがて明らかになる謎の組織の存在。
そしてボンドはカミーユ(オルガ・キュリレンコ)という女性、
組織の幹部ドミニク・グリーン(マチュー・アルマリック)に出会う…。
次々と息つく間もなく展開するアクションは前作に劣らず迫力満点な上に、
クルマ、船、飛行機と陸海空を制覇。バラエティも豊かで飽きさせない。
もちろん、ダニエル・クレイグご自慢の肉体を使ったアクションも健在だ。
スピーディーなアクションが思う存分楽しめる作品だが、注目したいのはドラマ部分。
意外なことに、本作の監督マーク・フォースターはアクション畑出身ではない。
傷ついた中年男女の恋愛物語「チョコレート」や、在米アフガニスタン人の帰郷を描いた
「君のためなら千回でも」など、人間ドラマを得意とする実力派。脚本には前作から
引き続き「ミリオンダラー・ベイビー」、「クラッシュ」のポール・ハギスが参加。
アクション大作とは思えない顔ぶれだが、ここに6代目ボンドが目指すものが表れて
いるように思う。それは”人間としてのジェームズ・ボンドを描く”ということではないか。
本作は愛する女性を失ったボンドの復讐劇。
作品全体が復讐に燃えるボンドを表現している。
激しく非情なアクションはボンドの怒りの表れ。
砂漠や荒野を多用した映像は荒んだ心の象徴。
今回のボンドガール、カミーユも復讐を誓った女性であり、復讐の物語を強調する。
ポスターなどにも使用されている2人が並んで荒野を歩くシーンは象徴的だ。
これまでの完全無欠のヒーローではなく、怒りも哀しみも抱え込んだ男。
そんな人間臭さを持つのが6代目ジェームズ・ボンド。テロや環境問題、金融危機など
様々な問題で世の中が閉塞感に覆われる今、求められているのは憧れの
ヒーローよりも、そういった共感できる人物なのかもしれない。
とはいえ、やはりボンド映画。シリーズとしてのお楽しみも随所に盛り込まれている。
Mのプライベートを描いた場面や旧作へのオマージュ、”スペクター”以来となる
謎の敵組織、などなど。こうなるとQやマネーペニーの登場にも期待がかかるが、
それは次回以降にとっておこう。
ひとまずは2年ぶりに登場した6代目ボンドの活躍を存分に楽しみたい。
映画「007/慰めの報酬」オフィシャルサイト
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傷ついた心が、共鳴する。
2009年1月24日(土)より丸の内ルーブル他全国ロードショー
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【映画ライター】イノウエケンイチ
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