僕らのミライへ逆回転

とにかく今度のミシェル・ゴンドリーは強大なポジティブ・パワーに満ちている。
『僕らのミライへ逆回転』は、ほんの軽い気持ちで始まった悪ふざけが、
いつしか街を飲み込むムーヴメントへと膨れあがっていく、
ちょっと大袈裟かもしれないが、ずばり「映画の神話」とでも言うべき物語だ。

081013_bokuranomirai.jpgここはニューヨークのダウンタウン。
その街角にVHSしか品揃えのない寂れたレンタル屋が佇んでいる。

店長(ダニー・グローヴァー)の言を借りれば
「それでも伝説的なジャズ・ピアニストの生家なんだぜ」。
そんな歴史的建造物(本当か?)も、今や都市計画によって
取り壊しの運命を余儀なくされている。

とにもかくにも、そんなレンタル屋でアクシデントが発生。なんと店長の留守中、
店に入り浸るジェリー(ジャック・ブラック)が持ち込んだ電磁波のせいで
レンタルビデオの映像がぜんぶ消えてしまったのだ!

これじゃ廃業も免れない。崖っぷちの店員マイク(モス・デフ)はジェリーとともに、
貸し出し希望のあったソフトをビデオカメラでリメイクする大作戦に打って出るのだが…。

はたしてリスペクトか冒涜か。リメイクされる名作は『ゴースト・バスターズ』、
『ラッシュアワー2』、『ロボコップ』、『ドライビング・ミス・デイジー』など数知れず。

このリメイク作のチープさがたまらない。学生映画でも実現可能な、
段ボールと廃品とでこしらえた美術セットの山、山、山。
当然、オリジナルとリメイクの間には圧倒的な格差が生まれ、
その狭間は凄まじいまでのイマジネーションで埋め尽くされていく。

それは例えるなら伝言ゲームがその冒頭と結末とで別次元の産物へ変貌するのと
同じ。ここでは奇跡的な「ズレ」が、リメイク作を宝石級の輝きにまで高めているのだ。

しかし、この映画はここからが肝心。

嵐のようなドタバタが過ぎ去ると、彼らはいつしかリメイク作ではなく、
自分たちにしか描けない唯一無二の物語を紡ぎ始める。
彼らの生まれ育った街の物語を---

映画はたかが虚構かもしれない。されど、虚構はときに人間の記憶の中で
巨大なリアルへと変貌する。『僕らのミライへ逆回転』が8割方の悪ふざけを
ひっさげながらも真摯に紡いでゆくのは、「記憶の再現(リメイク)」であり、
同時にこの「リアルの醸成」だ。

それらが途方もないうねりとなって、NYのダウンタウンを温かいコミュニティ愛で
包み込んでいく。そして気がつくと、ジェリー&マイクはその中心に立って、
まさか自分たちがムーブメントの震源とは知らずに回りをキョロキョロと見回している。
その姿にどうしようもなく胸が震えてしまう。

これはまさに、音楽ドキュメンタリー『ブロック・パーティ』の映画バージョン。
あるいはゴンドリー版の『ニュー・シネマ・パラダイス』といっても過言ではない。

※ちなみに原題の”BE KIND REWIND”は「返却の際は巻き戻してください」という
レンタル屋お決まりのフレーズです。

映画「僕らのミライへ逆回転」オフィシャルサイト
http://www.gyakukaiten.jp/
はっぴいえんどにリメイク中
10月11日(土)シネマライズ、シャンテシネ、新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C) Newline Productions/Junkyard Productions

【映画ライター】牛津厚信


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カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2008年10月14日 by p-movie.com