ミリオンダラー・ベイビー(2004)」、「クラッシュ(2004)」と、
アカデミー賞受賞したポール・ハギス監
督・脚本の新作。
現在のアメリカの混沌とした日常を描いた「クラッシュ」に続き、イラク戦争から帰還した兵士の物語を題材に描いている。
米プレイボーイ誌の記事に書かれた実話であることから誰もが関わりを懸念する題材には間違いない。
原題は<エラの谷>、旧約聖書に出てくる言葉である。
2004年11月、ハンク・ディアフィールド(トミー・リー・ジョーンズ)の元に息子マイクがイラクから帰還したがその後、姿を消したと告げられる。
軍人一家で育った息子に限って無許可離隊などあり得ないと思ったが、ハンクは妻ジョアン(スーザン・サランドン)を家に残し息子を探すために帰還したはずのフォート・ラッド基地へ向かう。
地元警察のエミリー(シャーリーズ・セロン)にも捜索をお願いし協力してもらったが、残念なことにマイクは焼死体で発見される…。
マイクと一緒にイラクから帰還した兵と話を続けていくハンクだったが、マイクの行動を何一つ知る者はいなかった。
そんな時に息子マイクが持っていた携帯電話の壊れかけた画像データをハンクは目にすることになる。
マイクがどうイラクで戦っていたのか、そして一緒にいた仲間たちとの会話など知ることになる。
イラク戦争でアメリカ兵は4000人以上の戦死者を出す中で、奇跡的に帰還できた兵士も多い。
現実には”帰還できたから良かった”では終わっていないのである。イラクでの経験をしてしまった若い兵士達は帰国してからも悪夢は続く。
本作では実際にあった事件を扱っているだけでなく、たくさんの帰還兵の心の闇と苦しみさえもリアルに描かれている。
これでも、まだ戦争を続けますか? 戦死しても、生き残って帰国できても、彼らに与えられたのは暗闇の傷ついた心なのである。
日本人は平和に浸りすぎているから身近には感じることは出来ないかもしれない。
でも、日本人はちゃんと知っている―――戦争によって及ぼす人間の痛みや苦しみを。そして二度と繰り返さない時代を作って行く事が使命だと。
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6月28日より有楽座他TOHO系にて全国ロードショー
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【映画ライター】佐藤まゆみ