玻璃の城

わたしはあなたを忘れたことはなかった。★★★★☆
[98/米] 1h40 4月1日より 岩波ホールにて

[監督] メイベル・チャン
[脚本・製作] アレックス・ロー
[撮影] ジングル・マ、アーサー・ウォン
[出演] レオン・ライ、スー・チー、ニコラ・チェン、ダニエル・ウー
[配給] アミューズ

 「宋家の三姉妹」の監督が、また風合いの異なる映画を作った。端的にいえば”不倫”の恋を描いたストーリー。だが、簡単に不倫だと一蹴するわけにはいかない不思議な恋があるものだ。

 学生時代に出会い、愛しあった一組の男女。しかし、その恋もいつしか時代に押し潰されて自然に消えてしまう。そんな過去を胸の奥に封印し、それぞれ別の家庭を築いて20年が過ぎた時、二人は偶然再会する。抑えてきた想い。そして二人は今までの人生で得られなかった愛を求めあう。だが彼らの不倫が”本物の恋”になるか”許されぬ恋”になるかは、彼ら自身にもその鍵は託されていない。

 学生紛争に荒れる香港と、返還に揺れる香港。時代と共に移り変わる街の中に描かれるのは、あくまでも微妙な心の動きである。”あの頃にはニ度と戻れない”と改めて見せつけるかのように、止まることなく輝きながら変化し続ける香港の街。その風景の中に漂う二人の恋は、一体どんな終着駅にたどりつくのか。

 もうひとつの見どころは、二人のそれぞれの子供たちである。彼らが、恋に落ちた二人に対してどう思い、何を感じるのか。また、二人の恋を引き継ぐかのようにふれあい、歩み始める彼らの姿には非常に好感が持て、希望を感じられる。私たちも微笑みを感じることができるだろう。

 主人公の二人を演じるのはレオン・ライとスー・チー。共に学生時代と現在とを通して演じきっている。普通ハリウッド映画などは40代~の女性を描く時、多少なりとも化粧で老け顔を作るのだが、スー・チーは20代~40代を素のまま演じている。彼女は演技だけで40代を表現できる不思議な女優なのだということに驚かされる。

 情緒的な恋を演出するにはあまりにも出来過ぎな風景というものがあるが、本作ではそれを非常にうまく取り入れ、リアリティを排した映像で過去の恋をロマンチックに描いている。
(気まぐれ飛行船)


カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2000年4月10日 by p-movie.com